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彗星撮影のポイント

「ほうき星」とも呼ばれる彗星は、肉眼で容易に見えるほど明るくなるものは少なく、しかもたいていは「明るくなる」ことがわかるのは観察期の直前です。一方で、「空の条件が良ければ肉眼でなんとか見える」レベルの彗星であれば数は増えますが、いずれにせよ観察や撮影の機会はなかなかありません。

彗星を撮影する場合、こうした貴重なチャンスを逃さないよう情報にアンテナを張っておくとともに、事前に撮影方法をしっかりとマスターしておく必要もあります。明るめの彗星は一般的な星景写真、星座写真を撮るのと同じ要領で写すこともできます。その準備や機材についてご案内します。

制作協力:山野泰照(写真家、写真技術研究家)

情報の確認と撮影場所の選定

彗星情報の確認

彗星は大きく分けると、10年~数十年の周期で太陽を公転する「周期彗星」と、遠くから太陽の近くにやってきて再び去っていく「非周期彗星」の2タイプがあります。非周期彗星については太陽に近づいて明るくなってから発見されることも多く、そのため位置や明るさの情報が直前になるまで不明なことがよくあります。また、周期彗星については過去の観測から軌道がわかっているおかげで位置が正確に計算できますが、突然明るくなる(アウトバーストを起こす)こともあり、やはり見え方の事前予測は簡単ではありません。

したがって彗星の情報は「年間の天文現象カレンダー」などには掲載されていないことがあるので、国立天文台や天文情報を取り扱うウェブサイト、SNSなどで情報を確認し、撮影できそうかどうかを検討しましょう。

※なお、「ニコン星空案内」については「肉眼でも見えそうと事前に予想される」彗星の情報は掲載していますが、それよりも暗いもの、直前まで明るさがわからないものは載っていません。

2007年10月にアウトバーストを起こして明るくなったホームズ彗星(撮影は2007年12月)。わずか2日間ほどで数十万倍も増光して肉眼でも容易に見える明るさになり、コマ(頭部)が大きく広がった不思議な姿を見せました。こうした予測不能なところも、彗星の大きな魅力の一つです。

撮影場所の選定

「空の条件が良ければ肉眼でも見えるかもしれない」レベルの、比較的明るい彗星の観察、撮影のポイントは、基本的に星景写真、星座写真と同じです。機材の選択や撮影方法は決して難しくはありません。ただし、彗星は太陽に近づくにつれて明るくなるので、たいていの場合は太陽の近くにいるタイミングで撮影することになります。

実際のところは夕方や明け方の薄明中に、地平線の近いところにある彗星を見つけて撮影することになりがちです。したがって、地平線近く(とくに東と西の方向)までよく開けた撮影場所の候補地を、いくつか見つけておくと良いでしょう。もちろん、街灯や街明かりの影響が少ないことも考慮したいポイントです。

撮影機材の選び方

カメラボディーとレンズ

最近のカメラボディーはどれも高感度で低ノイズなので、ミラーレスカメラであればどの製品でも問題ありません。撮影機材で主に検討したいのはレンズです。

基本的には星景写真や星座写真と同じですので、開放F値の小さい、いわゆる明るいレンズが適しています。F2.8程度で大丈夫ですが、できるだけ効率よく暗い彗星が撮影できるようにF1.8やF1.4の明るさがあるとより心強いです。

焦点距離に関しては、大きい(明るい、尾が長い)彗星でも50mm程度の標準レンズの画角に収まることがほとんどです。小さめの彗星の場合は85mmや135mmも選択肢に入るでしょう。まずは50mm程度の焦点距離で、F値の明るい標準レンズを1本目のレンズとして選択し、彗星の明るさや大きさによってはやや長めのレンズも考えると良いでしょう。

2024年秋に明るくなった紫金山・アトラス彗星を、焦点距離が50mm(左)と135mm(右)のレンズで撮影した例。焦点距離が長くなると星の動きを止めるための露出時間が短くなりますので、F値の明るい標準レンズは使い勝手が良いです。

オススメのカメラボディー

Z8

フルサイズ(FXフォーマット)で高精細な描画が可能。パワーバッテリーパックやモバイルバッテリーも使用でき、長時間の撮影でも安心です。

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Z5II

フルサイズ(FXフォーマット)で精細な描画が可能。優れた高感度性能で天体撮影に適しています。動画性能にも優れています。

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オススメのレンズ

NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

単焦点の標準レンズ。開放F値が1.2と非常に明るく、星空写真の撮影におすすめです。

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NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

単焦点の標準レンズ。開放F値が1.8と明るく、星空写真の撮影におすすめです。

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NIKKOR Z 85mm f/1.2 S

開放F値が1.2と非常に明るく、星空写真の撮影におすすめです。中望遠レンズで、彗星をややクローズアップして写せます。

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NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

開放F値が1.8と明るく、星空写真の撮影におすすめです。中望遠レンズで、彗星をややクローズアップして写せます。

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三脚など

カメラとレンズ以外に必要なのは、しっかり固定して撮影するための三脚と、カメラに触れずに撮影するためのアクセサリー(リモートコードなど)です。カメラに触れずに撮影するにはセルフタイマー機能も便利ですが、連続撮影をするなど様々な撮影スタイルに対応するためには、リモートコードなどのリモート撮影アクセサリーを1つ持っていると便利でしょう。

(左)ニコンZ6+NIKKOR Z 24-70mm f/4 S、リモートコードMC-DC2、(右)ニコンZ9+NIKKOR Z 50mm f/1.2 S、リモートコードMC-36A。できるだけ丈夫な三脚にしっかり取り付け、エレベーターはなるべく使わないようにしましょう。

撮影の準備と設定

撮影準備

撮影現場に着いたら、見晴らしを確認したうえで、彗星を探す前にまず撮影の準備をします。彗星を見つけたらすぐに撮影を開始しなければならないことが多いからです。具体的には以下のような手順です。

  1. 三脚を安定した場所に設置し、カメラを搭載し、レンズを取り付ける。
  2. フォーカスモードはMFにし、レンズは無限遠にピントを合わせる。
  3. 露出条件(後述)は目安となる条件で仮設定しておく。
    最終的には状況に応じて設定を変更しますから、準備の段階では厳密でなくてもかまいません。

彗星を探す

あらかじめ調べておいた彗星の予報位置を、方位や高度、周りの星の配列などの情報を手がかりにして探します。夕方の場合は、空が暗くなるにつれて見やすくなる一方で彗星の高度が次第に低くなっていくので、できるだけ早く彗星を見つけることが重要です。明け方は反対で、彗星は徐々に高くなりますが空がどんどん明るくなるので、やはり早めに見つけたいものです。

よほど明るい彗星を別にすれば、彗星は双眼鏡で探すのがお勧めです。双眼鏡の選び方や使い方は、「双眼鏡選びのポイント」ページや「紫金山・アトラス彗星」特集ページも参考にしてください。

2024年10月の、紫金山・アトラス彗星の位置を示した星図です(「紫金山・アトラス彗星」特集ページより)。このような図を利用して、方位や高度の情報から彗星を探します。

2024年10月21日には、「へびつかい座の2等星ラスアルハゲから双眼鏡の視野3つ分、下」「金星から右に2つ、上に4つ分」といった手順で紫金山・アトラス彗星を探すことができました。双眼鏡の視界の広さを把握しておくことが重要です。

オススメの双眼鏡

MONARCH M7 8x42

8倍42mmで実視界8.3度と広視界。特殊低分散ガラスによって色収差を補正するとともに、高いコントラストと解像力を実現しています。

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ただし、彗星は恒星のような点像ではなく、ぼやけた像ですので、想像以上に見つけにくいものです(尾も見えないことがほとんどです)。

一方、実際に撮影してみると、肉眼では見えなくても意外と簡単に写ります。そこで、およその方向にカメラを向けてまずはテスト撮影し、画面内に彗星が写っているか、どこにあるかを確認すると良いでしょう。彗星の位置がわかると、少し長めの焦点距離で画角が狭くてもフレーミングがしやすくなります。また、このテスト撮影のときに設定も決めると良いでしょう。

撮影の設定

※以下の設定については「星景写真撮影のポイント」ページでも図表や作例と共に解説しています。あわせて参考にしてください。

画質

ふだんJPEGに設定して撮影している方が多いと思いますが、天体写真では「RAW」でも撮影しておく設定(RAW+NORMALなど)をおすすめします。RAWはJPEGよりも多くの被写体の情報が記録できるため、ホワイトバランスやピクチャーコントロールなど画質に関連する項目を、撮影後に行うRAW現像の時点で画質の劣化を心配せずに調節できるからです。SNSなどで速報的に共有する場合にはJPEGを投稿し、後からじっくり処理するときにはRAWを使う、というのがおすすめです。

撮影モードと絞り

撮影モードは「マニュアル(M)」にしましょう。

絞りは、基本は「開放」にして(F値を一番小さくして)おきます。画面周辺などの画質が気になる場合には、1段程度絞ると良いでしょう。NIKKOR Zレンズ、特にSシリーズは開放からの描写性能が優れていますから、ほとんどの目的においては安心して絞り開放に設定することができます。

露出時間

ここでは三脚に固定した撮影を想定していますので、天体の日周運動によって撮影した像が流れてしまうことのない時間を設定する必要があります。1つの目安として「150ルール」というものをご紹介します。

これは、「天の赤道付近にある天体を撮影した時に、画面上で実質的に動きが認められない最長の露出時間」を知るための、星の動きやカメラのセンサーのピクセルサイズなどを考慮し単純化したもので、「露出時間(秒)=150÷焦点距離(mm)」という式で計算します。たとえば焦点距離50mmなら、150÷50=3(秒)、ということです。

天体の位置が天の赤道付近でなければ、もう少し露出時間を長くできます。また、多少天体の動きが見えても、露出時間を長くしたいという場合もあるでしょう。150ルールは最初の設定値として、テスト撮影などをもとに最終的な時間を決めましょう。

ISO感度

テスト撮影の結果を見るまでは適正露出がわかりませんから、最初は400など適当な値を設定してテスト撮影しましょう(露出計の数値も参考になります)。撮影結果をモニター画面で見ながら、ISO感度の設定を変えて露出レベルを変化させ、彗星が識別できる、あるいは最も綺麗に見える条件に追い込みましょう。

いざ、本撮影!

露出条件を確定させることができれば、本撮影に移ります。1枚だけの撮影でも良いのですが、空の明るさや彗星の高度の変化に対応するために、一定の時間間隔で何枚も撮影しておくことをおすすめします。あとから「最も綺麗に見える瞬間の画像を選択」すれば満足度が高まりますし、タイムラプス動画を作る楽しみも生まれるかもしれません。

夕暮れ時に空が次第に暗くなっていくなかで、紫金山・アトラス彗星が見え始めてから沈むまで5分間隔で撮影した例です。それぞれ適正露出になるように設定を変えています。空の色や明るさ、彗星の見え方、さらに雲の形や街灯まで様々なものが変化しますから、撮影時にベストなタイミングを判断するのは難しいものです。まずはたくさん撮影しておいて、あとから最適な画像を選択すると良いでしょう。

画像処理

撮影した画像が撮って出しの(画像処理や調節を行っていない)JPEGファイルで満足できる場合はそのままでも良いですが、多くの場合、NX Studioなどの画像処理ソフトを用いて色や階調の調節、トリミングなどの処理を行うことでさらに見栄えが良くなります。

撮影設定の画質の項で「RAW」をおすすめしたのは、こうした処理に対する耐性がJPEGよりも高いからです。画質調節はJPEGファイルでもできるのですが、処理内容によってはトーンジャンプなどの画質劣化が目立つ可能性があるため、情報量が多いRAWファイルを使う方が安全というわけです。

ここでは、RAWファイルからの処理方法(RAW現像)については詳しく説明はしませんが、撮影だけでなく、より高画質を得るための画像処理にも工夫のしがいや楽しさがあるので、ぜひトライしてみてください。

紫金山・アトラス彗星を50mmの標準レンズで撮影した画像(左)と、その画像から彗星だけを縦構図でトリミングしたもの(右)です(掲載時に拡大率を変えていますが、元は同じ画像)。彗星の大きさや地上の風景の魅力度にもよりますので、見せ方、切り取り方を工夫してみるとよいでしょう。

NX Studioを用いて画像処理を行うと、ホワイトバランスやレベル、トーンカーブなどを調節することで彗星がよくわかるようになります。

楽しみ方のバリエーション

彗星の画像に限ったことではありませんが、珍しい天体が撮影できたら、できるだけいろいろな形で楽しみたいものです。静止画を作品として楽しむ、複数枚の画像を並べて変化を楽しむ、タイムラプスなどの動画にして動きを楽しむなどのアイデアが浮かびますし、それらをSNSにアップすることで多くの方と共有する楽しみ方については言うまでもないでしょう。

また、今回紹介したのは比較的明るい彗星を星景写真と同じ要領で撮影する方法ですが、もっと暗い彗星を望遠レンズや天体望遠鏡にカメラを取り付けて撮影する方法もあります。撮影対象となる彗星の数が増えますし、彗星の色や尾の複雑な構造までわかるという面白さも味わえます。興味が湧いてきた方は、より暗い彗星の撮影にもチャレンジしてみてください。奥深く楽しい世界が待っていますよ。

2024年10月14日に撮影した紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)です。カメラを三脚に固定し、50mmレンズを装着して連続撮影した画像からタイムラプス動画にしました。
露出平滑化をONにしたので画面の明るさは一定で、目が暗さに順応していくのに近いイメージです。空が暗くなることで彗星がはっきり見えてきて、尾が長いことがよくわかるようになりますが、すぐに高度が下がりますので、空が暗くなってから撮ることができないこともわかります。

左の画像撮影時、同時に135mmレンズでも撮影し、同じようにタイムラプス動画にしました。彗星の存在感や地上風景とのバランス、暗い星まで写せるかといった点が50mmでの撮影と異なります。

2015年1月10日に撮影したラブジョイ彗星(C/2014 Q2)です。天体望遠鏡による撮影で、天体の日周運動に合わせて追尾しながら撮影した画像からタイムラプス動画にしました。彗星が背景の恒星に対して動いていく様子がわかります。
肉眼で見えるかどうかという少し暗めの彗星でも、撮影すると独特の色を含めて比較的簡単に記録できます。