天体にはいろいろなタイプのものがあります。明るさの面では、太陽、月、惑星といった直接肉眼で見える明るい天体から、天の川や星座を構成する恒星たち、さらには星雲や星団、遠くの銀河など望遠鏡を覗いても見ることができず、光を蓄積できる写真によって初めて確認できる暗い天体までバリエーションがあります。大きさの面でも、標準レンズで撮影したい星座や広角レンズで撮影したくなる天の川もあれば、焦点距離が5000mmを超える光学系で撮影したい惑星まで様々です。つまり、撮影したい天体の明るさや大きさに応じて適切な機材を選ぶことが重要です。
ここでは、多くの写真ファンが撮りたくなる最もポピュラーな「星景写真や星座写真」と、大きく撮りたい被写体の代表である「月や惑星」、それぞれを手軽に撮るための機材を中心にご紹介します。
制作協力:山野泰照(写真家、写真技術研究家)
「星景写真」は、地上の風景と星空を一つの画面の中に入れて撮影する写真、「星座写真」は、地上の風景は含まず空にある星座を撮影するものです。
いずれも被写体は見かけ上大きいので、画面の中に収めようとするとレンズの画角に注目する必要があります。撮影したい風景の広がりや星座の大きさを考えると、多くの場合は標準レンズ(焦点距離50mm前後)よりも広角レンズ(20mm前後)の方が相性が良いことがわかります。
また、暗い星まで撮りたい、できるだけ短い露出時間で撮影したいというニーズからは、いわゆる「明るい」レンズ(開放絞り値が1.8や1.4などの数値が小さいレンズ)が向いています。明るいレンズはズームレンズより単焦点レンズに多いのですが、一般的に高価です。ゆくゆくは単焦点レンズでの撮影にもチャレンジしたいところですが、まずはお持ちの標準ズームレンズでいろいろ撮影してみましょう。そのうえで、自分が狙いたい構図や撮影スタイルに合った焦点距離を見つけてから、開放絞り値が明るい単焦点レンズへとステップアップしていくと良いでしょう。
撮像センサーや画像処理エンジンの進化によって、最近のミラーレスカメラZシリーズなどはどれも高感度性能に優れているため、画質の面からは特にこれが良い、これでなければならないというようなものはありません。
その他の機能の面からは、寒冷地でも長時間の撮影が安心してできるように、外部電源を使用可能なUSB給電の機能が付いているカメラがおすすめです。また、カメラボディーに触れることなく確実にシャッターを切るため、リモートコードが使える機種が安心です。
撮像素子はAPS-Cサイズ(DXフォーマット)。小型軽量で手軽に携行でき、旅先での星空撮影にも便利です。モニターは構図決めの際に使いやすいバリアングル式を採用。モバイルバッテリーやリモートコードも使えます。
製品詳細を見る撮像素子はフルサイズ(FXフォーマット)で高精細な描画が可能。パワーバッテリーパックやモバイルバッテリーも使用できるので、長時間の撮影でも安心です。もちろんリモートコードも使えます。
製品詳細を見る星景写真の撮影では一般的に露出時間が数秒以上になるので、三脚があると安心です。風や振動に強い、しっかりしたものを選びましょう。
USB給電ができるカメラボディーであれば、モバイルバッテリーなどの外部電源が用意できれば安心です。ただし、その動作はカメラボディーに装填されているバッテリーの状態に依存する場合がありますので、モバイルバッテリーの有無によらず、予備バッテリーを用意しておくと良いでしょう。
デジタルカメラでの撮影では、明るい星もシャープに小さく写ります。すると、とくに小さい画面で見た時に、星座の形がわかりにくくなってしまいます。こうした場合にはソフトフィルターを使って撮影すると、明るい星の像がにじんで大きくなり、見やすくなります。
ただし、一度撮影してしまったら元のシャープな状態には戻せません。また、地上の明かりにもフィルター効果がかかると目立ちすぎるような場合もあります。作品をどう見せたいかを考えながら、ソフトフィルターの種類や使用の是非を検討してみてください。
月を画面の中である程度の大きさで撮影しようと思えば、焦点距離400mm以上の光学系が、画面いっぱいに撮影しようと思えば焦点距離2000mm程度の光学系が必要です。また、見かけのサイズが小さい惑星の場合はさらに長い焦点距離が必要で、5000mm以上の光学系で撮影したいことがほとんどです。
これらの焦点距離はFX(フルサイズ)のセンサーサイズのデジタルカメラの場合に必要な値です。センサーサイズが違えば画面の中で同じように見える焦点距離が違ってきます。これをわかりやすく表現したものが、「35mm判換算で1000mm相当」というような換算値です。
こうした長い焦点距離の光学系が必要な月や惑星を撮影するのに注目されているのが、35mm判換算で2000mm相当というような領域までカバーできる超望遠ズームレンズが搭載された「コンパクトデジタルカメラ」です。月面を画面いっぱいに撮影することができ、月のクレーターまではっきり写すことができる機種もあります。
焦点距離3000mm相当(35mm判換算)、光学125倍の超望遠ズーム搭載。月面のクレーターなどの様々な地形までハッキリと写すことができます。経験が少ない方のための、月を簡単に美しく撮影できる「月モード」を使えば、素早く最適な設定ができます。
製品詳細を見る明るい月であれば、手ブレ補正の機能を使って手持ちの撮影も可能ですが、厳密に構図を決めてできるだけ高精細に撮影するには三脚があると便利です。また、シャッターを切る際にカメラ本体に手を触れなくても済むようにセルフタイマー機能を利用する方法もありますが、リモートコードがあると便利で安心です。
※ミラーレスカメラの場合、交換レンズの選択肢として考えられる焦点距離800mm程度の光学系で月を撮影しても画像はあまり大きくないため、アダプターを介して天体望遠鏡にカメラボディーを取り付けて撮影するのが一般的です。ただ、望遠側の焦点距離が400mm程度のレンズであれば、撮影した月をトリミングして拡大してみると、実はクレーターまで写っていることが確認できます。レンズをお持ちであれば試してみると良いでしょう。
月・太陽・惑星 撮影クイックガイド天体の探し方からおすすめの撮影機材やテクニックまで、星空を楽しむうえで知っておきたいポイントをご紹介します。