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星景写真撮影のポイント

地上の風景と星空を一枚の画面の中に収めて撮影した写真を「星景写真」と呼びます。カメラの高感度性能や明るいレンズの描写性能が向上したおかげで、比較的簡単に撮影できるようになりました。とくに空が綺麗な場所では美しい画像が得られるので、自然豊かで風景が美しい場所へ旅行されるときなどには多くの方に楽しんでいただきたい撮影テーマです。また、撮り方や画像処理を工夫すると町中での写真も楽しめます。

ここでは、星景写真を撮影するのに必要な機材や、撮影方法、押さえておきたいポイントなどを紹介します。
制作協力:山野泰照(写真家、写真技術研究家)

フレーミング・構図

空気が澄んだ空が暗いところで星空を見上げると、そこにどのような星座や星があっても気持ちが良いものです。その意味ではフレーミングや構図は自由なものですが、少し天文の知識が身についてくると、星座の形や天空を移動する惑星の位置なども気にしたくなります。逆に、そういう知識があれば、星景写真の撮影がより楽しくなるとも言えます。

星景写真で注目しておきたい天体としては、天の川、「オリオン座」や「北斗七星」といった有名な星の並び、明るい惑星などが挙げられます。また、夕方や明け方に見ることができる細い月なども良い被写体となります。

西の空に傾く冬の大三角と金星。季節や時間帯によって、星座の角度や地上風景との位置関係、惑星の位置などが変わります。
ニコン Z7+NIKKOR Z 20mm f/1.8 S(ISO 12800、6秒、f/1.8)

地球照が見える細い月と海。美しい光景に出逢ったら、まずは撮影したいものです。
ニコン D800+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G(ISO 400、1.6秒、f/2.8)

地上風景と星空とのバランス

星景写真では地上の風景も重要な被写体です。地上風景の入れ方や、地上風景と星空との比率などについては、とくにルールはありません。有名な場所(ランドマークなど)や特徴的な地上の風景(山の稜線、海岸など)があれば、それらを活かしたフレーミングや構図を意識してみましょう。また、日常的で素朴な風景と季節の星座や月とを組み合わせたフレーミングも面白いものです。

撮影機材の選び方

カメラボディーの選択

星景写真を撮るためのカメラボディーとしては、高感度性能が優れたものが望ましいことは言うまでもありません。とはいえ、技術の進歩によって、現在販売されているミラーレスなどのシステムカメラであれば、適切な条件に設定することでどれでも撮影できます。

ただし、撮影環境が寒冷地の場合や、撮影が長時間に及ぶ場合には、USB給電を用いてモバイルバッテリーからの電源供給ができれば安心です。また、撮影時に直接カメラに手を触れることなくレリーズしたり、連続撮影をしやすくしたりするために、リモートコードが使えるかというような機能にも注目したいところです。

撮影目的に応じて選択したいレンズ

星景写真に入れたくなるような星座は、頭の中で考える以上に大きいものです。さらに風景を入れるとなると、基本的に広角レンズが向いています。

撮影場所で最適なフレーミングと構図を検討しますので、画角を変えることができる広角系ズームレンズが便利です。一方、暗い星を短時間で撮影したいという星空撮影の制約からは、できるだけ明るい(開放F値が小さい)単焦点レンズも有力な選択肢です。

代表的なレンズとしては、14-24mmのズームレンズや20mm程度の単焦点レンズが人気です。ズームレンズの場合は開放F値が2.8以下、単焦点レンズの場合は開放F値が2以下の明るいレンズが好まれます。

その他の機材

カメラボディーとレンズ以外にまず用意したいものは三脚です。風などの影響を受けにくい、しっかりしたものがおすすめです。

また、カメラに触れずにシャッターを切るためのリモートコードがあると便利です。ワイヤレスのリモコンやスマートフォンを利用するリモコン機能もありますが、いざという時にペアリングが切れていたりバッテリー切れになっていたりしないように注意しましょう。

低温環境で撮影する場合には、予備バッテリーを用意しておきましょう、USB給電ができるカメラの場合は、モバイルバッテリーを用意しておくとより安心です。また、寒い環境で撮影する場合はレンズの結露が心配されますので、結露防止のヒーターを用意すると安心です。ほとんどの製品はモバイルバッテリーで使用することができます。

(左)レンズには結露防止のため市販のヒーター(モバイルバッテリー使用)を巻いてあります。また、ストラップは風の影響を受けないように雲台に巻き付けました。/(右)小型三脚なので風の影響を受けやすいため、できるだけ高さを低くして使用しました。

以上は星景写真を撮るための基本的な機材ですが、表現という観点からはソフトフィルターが人気です。レンズ性能が向上した結果、明るい星でも極めて小さくシャープに記録できるのですが、星座の形がわかりにくくなるという側面もあります。このような時に、明るい星を大きく見せることで星座の形をわかりやすくできるのがソフトフィルターです。効果の強さに応じて様々なタイプがありますので、目的に応じて使用を検討してみると良いでしょう。

ソフトフィルターの使用例。使用していないもの(左)よりも明るい星が目立ち、星の色もわかりやすくなります。

撮影条件

撮影条件は、露出時間、絞り値、ISO感度の組み合わせで決めます。星景写真の場合、被写体が暗すぎて自動露出(AE)での撮影は難しいので、撮影モードをマニュアル(M)にして露出時間と絞り値を設定します。撮影者の表現意図を実現するうえでもマニュアル(M)がお勧めです。

露出時間

天体は、地球の自転によって1時間に15度、天の北極や南極を中心に回転します(日周運動)。そのため、露出時間を長くすると、星像が線になります。この星の動きを止めて点像にするかどうかで露出時間の考え方が変わってきます。撮影した星景写真をスマートフォンなど小さい画面で見るのであれば多少星が流れていても気になりませんが、PCのモニター画面で見たり大きいプリント作品にしたりする可能性があれば、星が流れていない点像にするのが良いでしょう。

星を点像にするには、いくつかの要素が関係します。撮りたい被写体領域の場所(赤緯:天の赤道や極からの離れ具合を表す角度)、レンズの焦点距離、撮像素子のピクセルサイズなどです。最近のカメラの撮像素子のピクセルサイズを前提にしたときに「見かけ上、星が流れていないとみなせる露出時間」を表にしたので参考にしてください。この数値は比較的厳しめのもので、大きく拡大して見ることがなければ、もう少し長い露出時間でも気にならないかもしれません。実際に撮影して試しながらチューニングしてみてください。

星を点像として写すための上限の露出時間(目安)は、レンズの焦点距離と赤緯によって変わります。

天の川の中心付近(赤緯-24度付近)を、露出時間を変えて撮影した例:(左)8秒/(中)15秒/(右)30秒。星がどの程度、線状に伸びて写るかは、露出時間だけでなくレンズの焦点距離や赤緯などにも依存します。最終的にどのような環境で鑑賞するかもポイントです。
ニコン Z7+NIKKOR Z 20mm f/1.8 S(ISO 3200、f/1.8)

絞り

レンズの絞りは、できるだけ暗い星まで短い露出時間で撮影できるようにするために、基本的に「開放」(F値を一番小さくする設定)がおすすめです。画面の周辺で星像が乱れるなど、画質が気になるようであれば、半絞りから1絞り程度絞る(F値を大きくする)と良いでしょう。

露出時間、絞り、ISO感度の組み合わせ

本撮影をする前に試し撮りをして露出条件を最適化していきますが、できるだけ試し撮りの回数を減らして効率的に最適条件を見つけるために、まずは下表の左の条件で撮影してみることをおすすめします。そのうえで、撮影環境や撮影結果に応じて設定を調節し、その場に最適な撮影条件を見つけると良いでしょう。

左の設定は、空が暗い場所なら満天の星が写る撮影条件です。試写の結果、星が流れていれば露出時間を短くし、空が明るければ(星数が少なければ)感度を下げましょう。

ホワイトバランス

ホワイトバランスは「オート」や「自然光オート」にすると、見た目に近い印象の色になります。積極的に色を自分でコントロールしたい場合は、ホワイトバランスから色温度を選択して数値を入力してください。一般的に星景写真は青っぽい色合いが好まれる傾向があり、色温度を低めの設定(4000Kなど)にするとそのような色調になります。

画質モードでJPEGを選択している場合はホワイトバランスの設定が反映された画像が記録されますが、RAW(後述)を選択している場合は、撮影後に行うRAW現像の段階でPCのモニター画面を見ながら色を調節できますので、撮影時の設定にはこだわる必要はありません(サムネイル画像にはホワイトバランスが反映されます)。

ピクチャーコントロール

ピクチャーコントロールは階調や色に関する設定を行う機能です。「スタンダード」「ニュートラル」「ビビッド」などから選択し、必要であれば詳細設定で「輪郭強調」「コントラスト」「色の濃さ(彩度)」を細かく調節します。まず「スタンダード」を試してみて、もっとメリハリをつけたいときは「ビビッド」、もっとおとなしい画質にしたい場合は「ニュートラル」にすると良いでしょう。「コントラスト」は「ニュートラル」が良いが「輪郭強調」はもう少し強い方が良い、というような場合は、ピクチャーコントロールで「ニュートラル」を選択して詳細設定の「輪郭強調」を4など強めの設定に調節すると、目的の画像が得られます。

なお、ピクチャーコントロールも、画質モードでJPEGを選択している場合はその設定が反映された画像が記録されますが、RAWを選択している場合は、撮影後のRAW現像の段階でPCのモニター画面を見ながらコントラスト等を調節できますので、撮影時の設定にはこだわる必要はありません。

思い通りの画像に仕上げるためのRAW

多くの写真ファンは画質モードをJPEGにして撮影されていると思われますが、JPEG撮って出しの(画像処理や調節を行っていない)画像に満足できない場合は、NX Studioなどの画像処理ソフトで画質調節をして思い通りに仕上げることができます。この際、JPEGで記録された画像でも処理は可能ですが、RAWの方が記録されている情報量が多いため、画像処理をしても画質の劣化が少ない良好な結果が得られます。そこで、撮影時には画質モードでRAWも選択しておくことをおすすめします。

星景写真の場合は、特に色調が大切ですし、地上の風景を思い通りに仕上げるために、ホワイトバランスの調節をはじめとしてピクチャーコントロールの選択、さらに詳細設定で輪郭強調、コントラスト、色の濃さ(彩度)などによって画像を整えます。撮影前と違って落ち着いて作業できますから、納得できるまで調節することができます。

撮って出しの画像(左)はさびしい印象ですが、トーンカーブなどで階調を調整すると(右)暗い星まで写っていることがわかります。

手ブレ補正

手ブレ補正は手持ち撮影をする時には大変有効ですが、カメラを三脚にしっかり固定している時には、フレーミングや構図を変更する際に三脚の動きに素直に連動してくれるようにOFFにしておきましょう。

いざ、撮影

カメラを三脚に取り付けて、画面の中に入れたい星座や地上の風景を入れます。その際、カメラにスターライトビューの機能が付いていればONにしておくと、暗い被写体に対してはフレーミングしやすくなります。水準器の機能を利用しながら、水平に気を付けて構図を決めると良いでしょう。

ピント合わせ

ピントは、地上の風景をメインに撮りたい場合は地上に、星空を綺麗に見せたい場合には星に合わせます。暗い環境ではファインダーの中の被写体が見えにくいことがありますが、カメラにスターライトビューの機能が付いていればONにしておくとフレーミングやピント合わせがしやすくなります。

星にピントを合わせる場合、一般に星景写真の場合はAFが難しいことが多いため、フォーカスモードはMFにします。絞りを撮影に用いるF値に設定し、モニター画面で明るい星を「+」ボタンで拡大して見ながら、ピントリングを回して星像の大きさが最も小さくなるよう調節すればピント合わせは完了です。いったんピント合わせが完了したら、フォーカスリングには触れず、ズーム操作もしないようにしましょう。

撮影時の注意

撮影に際しては、シャッターを切る際にカメラに触れることによって生じるブレを避けるために、リモートコードを接続すると良いでしょう。リモートコードがない場合は、セルフタイマーを使ってカメラに触れずにシャッターを切ると安心です。

風が吹いている場合、カメラのストラップが風に煽られて露出中にブレが発生する可能性があります。ストラップを外すか三脚に結びつけておくことをおすすめします。

用意できたら、静かにシャッターを切ります。

様々な作品作りの楽しみ

星景写真は空の綺麗な旅先で出会った星空の記念写真としても楽しめますが、インターバルタイマー撮影やレリーズモードの連続撮影で多くの枚数を撮影し、画像処理の段階で「比較明合成」処理を行うと、目で見たのとは違う作品に仕上げることもできます。また、多数枚をつなげてタイムラプスムービーとして仕上げるという楽しみ方もあります。今回は1枚の作品として意図通りの星景写真を撮影するための方法を紹介しましたが、星景写真の撮影に慣れてきたら、より多くの楽しみ方に触れてみてはいかがでしょうか。

ニコン D810A+AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED(14mm、ISO 4000、6秒)

同じ設定で撮影したものを1560枚(2時間36分露出に相当)、比較明合成したものです。

おわりに

星景写真は、自然環境に恵まれた場所に住んでいる方以外は、そのような場所に出かけることによって撮影することが可能になるものです。したがって、どこに出かけるか、そこでどういう被写体を撮影するかを計画することも、星景写真の楽しみ方の一つと言えるでしょう。

月齢のタイミングも重要です。できるだけ暗い星まで撮影したいのなら空には月がない方が良いですし、地球照が見える細い月を入れた星景写真も素敵です。月と惑星が接近する日付、月の形や出没の時刻、何時ごろどんな星座がどの方向に見えるのか、などをあらかじめ確認することは、より良い結果を確実に得るというだけでなく、当日に現場で慌てないためにも有効です。星座早見盤やスマートフォンのアプリ、PCのプラネタリウムソフトなどを使うと、計画がより正確で確実になりますので、ぜひ活用しましょう。

ニコン Z7 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S(f/1.8、ISO 1600、10秒×20枚を合成)。星が点像になるように合成し、画質を調節して仕上げたものです。1枚画像よりもノイズが少なく、コントラストが良くなります。

星空観察と撮影のポイント