営業時間(三重県津市)
「これ、暗くなるまで撮ってても、園内に閉じ込められたりしないですよね?」
現在時刻は19時30分。心配性の私は、近くで帰り支度を始めた地元のカメラマンっぽいお兄さんに、もう一度、尋ねてみる。
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ここは、「かざはやの里」。2004年に誕生した、梅、藤、アジサイ、コスモスが群生する三重県随一の花園だ。特に53品種7万株以上あるというアジサイの花が、今、まさに旬を迎えている。 このアジサイが夕焼けに染まる絶景が、「かざはやの里」屈指の見どころだが、営業時間は8時から18時と書いてあり、日没が19時なので、営業時間外の絶景ということなる。
少し時間を巻き戻して、17時過ぎ。日没はまだまだ先だが、すでに撮影ポイントの前には、二重三重の三脚が列をなしていた。
今、ここにいるカメラマンは全員、夕日とアジサイを狙っているし、公式サイトにも夕焼けとアジサイの写真が宣伝されているので、営業時間外とはいえ暗黙の了解で、大丈夫なんだろう。
まさか、これだけの人数を今さら追い出したり、閉じ込めることはあるまい。と思ったが、念のため、常連らしきお兄さんに、「夕焼けまで撮れるんですよね?」と確認してみる。「大丈夫ですよ!」と太鼓判を押してくれた後、お兄さんは語ってくれた。
以前、彼も夕焼けまで撮れるか心配だったので、受付で同じ質問をしたら、OKの言葉と一緒に、「星を撮るんですか?!」と好奇心をにじませた逆質問を受けたのだとか。「いえ、そこまでは」と返しつつ、心の中では「星を撮れるぐらい、遅くまでいてもいいんだ」と驚いたそうである。
この逸話を聞いた私は、「よっしゃ! 今日は星を撮るぞ!」と決意したのだが、夕日が沈むと、空の色が変わるのを待たずに、どんどんカメラマンが帰り始め、不安が再燃してきた。やがて、夕焼けも色が消え、太鼓判のお兄さんも帰り、ついには一人ぼっちになってしまったが、星を待って撮り続ける。
後から思えば、何度もここへ来ている地元のカメラマンたちがあっさり帰るということは、今夜は撮れ高が期待できないと推測すべきだった。
実際、夕焼けが終わると、アジサイは暗くて見えないし、いつまで待っても空は明るいし、さっきまでは大勢の人に分散されていた蚊の集中攻撃を浴びるし……の三重苦。 それに、いくら14ミリの広角レンズでも、アジサイを手前にドカーンと入れた構図では、地上近くの狭い空しか写らず、星の写し甲斐がない。 満月が近いせいか、星もなかなか見えてこず、フィルター類を駆使しながら5分、8分と長時間露光しても、なかなかうまくいかない。
夕景が素晴らしかっただけに興ざめ感が著しく、無理に頑張るのが、だんだん嫌になってきた。
「もう、帰ろう」
さすがの私も退散することに。さて、ほんとにちゃんと園内から出られるかな? 出口までの道をヒヤヒヤしながら歩く。夜の花園は、どうも薄気味悪い。
「ギャー」
突然、視界の端に異様な人の気配を感じて思わず叫び、叫んだ自分の声にびっくりする。 ヘッドランプの光で浮かび上がったのは、河童の像だった。 来るとき、こんな河童、いたかな? まあ、行きは撮影場所確保のため、ものすごく急いでいたし、方向音痴なのに、近道をしようとしたので、道を間違ったのかもしれない。 日中なら、勘違いを笑い飛ばして終了だが、この闇の中で一旦怖いと思い始めると、恐怖心はなかなか消えてくれない。
駆け足……は、荷物が重くて無理だったが、汗だくになりながら歩を早める。何にも遭遇することなく、無事、車にたどり着いた時は、心底、胸をなでおろした。
サッサと帰ろう。と、機材を車に片付けていると、遠くから、こっちに向かって走ってくる車のライトに気付く。こんな時間から撮影? 今からが本番? 負けず嫌い根性がムクムクと頭をもたげてくる。
一人であの道を引き返すのはゴメンだが、もし、カメラマンが来たら、私ももう一回、戻ろうか? いや、もう疲れたな。心の中で葛藤が生まれる。
が、車は駐車場の方には来ず、別の方向に消えていった。
よかった。これで心置きなく帰れる。私はホッとしながら、車を発進させた。
旅ノート
「かざはやの里」は、花の見ごろに合わせて、営業時間や入園料も100円から1,500円と変わるので合理的。開花情報も公開している公式サイトをよく見ると、18時「入園締切」で、それまでに入園料を払って中に入っていれば、出場は自由のようだ。
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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2026年5-6月号





