土産がない!(青森県弘前市)
早く行かないと、お店が閉まっちゃう。
弘前城外堀に映り込む夜桜を撮りながら、私は焦っていた。
薄暮の桜を撮ったら、今日こそは早々に切り上げ、青森のお土産を買いに行くつもりだったのに、弘前は桜が見事な上、ライトアップのクオリティも高過ぎて、なかなか離れられない。照明がイマイチだと、日没1時間後には桜花に当たるライトの明暗差や色の不自然さが浮き彫りになり興ざめしてくるのだが、ここの桜は夜が深まるほど、妖しい美しさを増していくようだ。
今回の弘前滞在は丸2日間。風が強かったおかげで、外堀、西堀とも満開に花筏もあり、どこへ行っても見頃・撮り頃で、初日の夜明け前から撮影に没頭し続けた。この後は、急いで南下するので、青森のお土産を買うチャンスはあと数時間しかない。駐車場まで歩くだけでも時間がかかるのに、美しい夜桜に立ち止まっては撮影を繰り返すうち、時間はどんどん過ぎていく。そしてついに、津軽藩ねぷた村近くの曲がり角で、私の足は完全に止まってしまった。
ここは例年だと水面を占拠する水草が邪魔で、夜は正面にある岩木山も見えないので記録写真を撮る程度の場所なのだが、今夜は一面、蠢く桜の花びらに覆われている。彷徨うようにめまぐるしく模様を変える花筏に、私の写欲はガッシリわしづかみされた。30秒、60秒とスローシャッターで、散り花の軌跡を描き写す。
あっという間に時間が経ち、気が付くと辺りは静まりかえっていた。人通りは減り、桜越しに見える街灯や信号、時折走る車のライトがキラキラするほかは、店の明かりも消えて真っ暗だ。
近くの店はもう全部、閉まっちゃったな。こうなったら、23時まで開いているスーパーマーケットに賭けるしかない。この戦法は最近よく使っていて、生活に密着した本当の名産品がご当地価格で購入できるし、私がよく買う調味料や麺類、漬物類は種類も豊富で、陳列の様子から地元での人気度も推測できるのが楽しい。大手スーパーだと、物産コーナーで贈答用に包装された商品を置いているところもある。
「ここから車に戻って、スーパーにたどり着くのに何分かかるかな?」
やっぱり急がないと。分かっているのに写欲に負け続けて、結局、いつも通り、夜桜消灯の23時まで粘ってしまった。
あぁ、今回も青森県のお土産を買えなかった。「青森にある弘前城まで、桜を撮りに行ってきました!」と、戦利品をだしに、自慢したかったのに……と、とぼとぼ歩きながら考える。
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そういえば、これまで十回以上、弘前の桜を撮りに来ているのに、いつも撮影に夢中になり過ぎて、ここでお土産を買った記憶がない。秋によく訪れる八甲田山エリアでも、同じような経緯でつい買いそびれてしまう。
青森土産で唯一の記憶は下北半島で買ったベビーホタテ貝柱くらいだ。あの時は母と一緒で、ちゃんと観光も取り入れていたからな。福島の三春の滝桜から弘前城の桜、下北半島を巡り、それでも弘前ではお土産を買う余裕がなかった。
他の東北エリアでは、毎回お土産エッセイが書けるほど、いろいろさまざま入手しているのに、どうも青森県のお土産には縁がないようだ。
今回も、すでに秋田では、稲庭うどん、比内鶏のスープ、真空パックのいぶりがっこをスーパーマーケットで購入済みである。
弘前城前夜に訪問した、秋田の角館・桧木内川の夜桜は、薄暮の時間帯が最高に美しく、その後、空が真っ暗になると撮りづらくなったのが幸いして、お土産を物色する時間があったのだ。
弘前の夜桜みたいに撮れ高が良過ぎると、スーパーの営業時間に間に合わなくなってしまう。私みたいなはぐれ観光客が、美しい桜へのお礼に、現地でお金を使いたくても使えない。なんとも皮肉な話だ。
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さて、お土産の話ばかりしてしまったが、ちゃんと写真も撮っている。
この桜旅で、静止画と動画で721GB分のデータを撮影。北国の桜の色香に引かれて撮りまくったが、これだけの画像をチェックするのは正直、骨が折れるし、睡魔との戦いになる。
眠気覚ましに、青森で買いそびれ、ネットで購入した青森産ホタテ貝のヒモスナックをつまみながら、夜な夜なデスクワークに励むのだった。
旅ノート
東北旅はグルメ旅、お土産旅。福島で喜多方ラーメンを食べ、蓮沼のよむぎ麺を買い、山形ではのし梅や十一屋のふうき豆蒸どら焼きを、宮城なら笹かま、青森はカリポリ。最近になって、やっと秋田のいぶりがっこの美味しさが分かるようになりハマっている。
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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2026年3-4月号





