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幸運の池(新潟県糸魚川市)

Z8/NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/f8・1/200秒/ISO800/RAW/NX-Studio/晴天/ビビッド/PL/手持ち/'24年10月27日8時/新潟県糸魚川市・白池

ガサガサガサ……艶やかな紅葉が水鏡に映り込む静かな朝。対岸の葉擦れの音がする辺りに目をやると、何かが動く気配がしてドキリとする。望遠レンズをのぞいてみると、水辺に現れたサルだった。パキパキパキ。木枝を渡るサルもいる。

音がなければ気付かないし、動かなければどこにいるか分からないほど離れていて、米粒ほどの大きさにしか写らないが、紅葉風景がきれいすぎて平凡だなあと思っていたので、サルは画竜点睛の存在感を発揮してくれた。

これまで、車道や山道の真ん中に群れで陣取り、牽制してくるサルには何度も遭遇したが、絵になりそうな場所で見付けたサルは、カメラを構えると逃げてしまうのが常で、自然な表情のまま風景に溶け込む様子を、すんなり収められるなんて、夢のようだ。撮れる時には簡単に撮れるもんだなあ。どんなに苦労してもダメな時が多いのに……。画面に捉えたサルと紅葉を確認しながら、私は昨夜の星空を思い出していた。

   *

白池は初訪問で、昨日の午後に到着した。長居するつもりはなかったが、予想以上の美しさに、気付くと日暮れ間近になっていた。水鏡に映る空は快晴で雲一つない。

「この天気なら、もう少し待てば天の川が撮れるかも」と思い付いた私は、池畔のデッキに三脚を構え、獣除け用線香やラジオなど、万全の準備をして星を待つことにした。

午後6時過ぎ、意外と明るい対岸の山向こうから、遠慮がちに現れた天の川を撮りながら、ふと、数日前の記憶が蘇る。

「もしかして……」

撮影画像を確認すると、ビンゴ! 話題の紫金山・アトラス彗星が写っていた!
作品にするには少々物足りない写り方だが、実物に出合えただけでも嬉しい。まさか、ここで撮れるなんて……。

   *

肉眼でも見えると評判の彗星は、10月某日が最高の撮影条件だったが、私は仕事があって撮りに行けなかった。その僻みも手伝い、もう撮らないつもりでいたのに、連日、WEBにアップされる絶景彗星写真に刺激され、だんだん撮りたくなってきた。

が、「今夜なら撮れる」という確証のない空模様が続き、ぐずぐずするうち、専門家が謳う見頃最終日の20日になってしまう。

「今日がラストチャンスだ」

翌々日に地元の京都で用事があるので遠出は諦めて、市街を一望できる夕日と夜景の展望地へ出掛けた。ここは公共交通機関がないため、それほど混まないお気に入りの場所だ。

夕日から夕焼けの後、町明かりの市街へ尾を引きながら沈んでいく彗星をタイムラプス動画で撮ってみよう。ドラマチックな妄想はみるみる膨らみ、張り切って現地へ着くと、私と同じ駆け込み組が大挙した展望台はかつてないほどの賑わいだった。普段はガラガラの駐車場も満車で、あふれた車の路駐が連なりパトカーが出動するほどだったが、万人の願いもむなしく、彗星は雲に阻まれてチラとも見えなかった。

ひと目でいいから、彗星が見てみたい。意地になった私は、翌日も懲りずに再訪したものの、やっぱり何も見えない。

「もう諦めよう」

地球からどんどん遠ざかる彗星にこだわるのをやめて、見頃を迎えている紅葉旅に出発したのが数日前。

私にしては珍しくキッパリ切り替えて、黄金色のブナ、雨霧に煙る山紅葉と秋の彩を満喫していたら、彗星まで姿を見せてくれた。二兎を追うもの、三兎を得てしまう。

あんなに切望しても気配すらうかがえなかった彗星と、こんなに簡単に出合えるなんて。私が頑張った2日間に比べて、ずっと輝きを失っているはずの彗星だけど、周囲が暗くて雲に阻まれなければ、見えるものなんだなあ。

魚のいない水中に釣り糸を垂らしても、魚は釣れない。努力は、努力し甲斐のあるところでしないと無駄なんだと、痛感する。

   *

やがて天の川と彗星は、仲良く山向こうへ沈んでゆき、私も市街地へ降りたものの、なんだか名残惜しくて、翌朝、白池へ再訪問することにした。

おかげで朝の光に輝く紅葉や水辺をのぞき込むサル達にも出合えて笑いが止まらない。この幸運の池に住む彼らも、昨日の星空を眺めただろうか。期待以上の撮れ高と思わぬ敗者復活戦を制した私は、今度こそ、心残りなく白池を後にした。


旅ノート

風景写真家にとって、野生動物の目撃は珍しいことではない。特に危険な熊に対しては、万全の対策が必要だ。東北ではコンビニで熊除けの爆竹を販売しているところもある。熊除けスプレーや獣除け線香、猟犬の鳴き声を再現するスマホアプリなども活用したい。

※本文に掲載されているサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2025年11-12月号

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