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蒼池繚乱(山口県下関市)

Z 7II/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/f5.6AE/1/125秒・-1EV/ISO800/RAW/Capture NX-D/3690KB(G0.25)/ビビッド/PL/'21年7月20日7時54分/山口県下関市・一ノ俣桜公園 蒼霧鯉池

「祇園祭の頃ですね。ちょっと行けないなあ」。

私の地元・京都では、祇園祭の関連行事が7月いっぱい続く。絶対撮らなきゃいけないわけではないが、「京都のカメラマン」なのに「祇園祭を撮らない」のは罪悪感があり、旅先の車中泊が暑さでシビアなのも手伝って、つい出不精になり、この時期の全国の撮影ポイントはずっと撮り逃していた。それがコロナ禍で、祭一番の見どころの山鉾巡行や宵山が控えられてから、私の中の糸がプツリと音をたてて切れた。いつもなら7月に入ると祇園祭の話題で「義務感」が刺激されるが、この年、耳にしたのは、もうすぐ始まるオリンピックの賛否両論ばかり。五輪のイメージ対策なのか、報道では感染者数も落ち着いてきたようだ。「五輪後はぶり返しそうだし、今しかないのかも」。真昼間に仕事をさぼってビールを飲むおじさんの、「後ろめたいけどサイコー!」な気分で、宵山が始まる頃、私は旅に出た。

   *

さて、行先は?
春、いつも慌ただしく桜だけ撮って走り抜けてしまう、山陽エリアをのんびり目指すことにする。最終目的地は、一ノ俣温泉の水没林。以前、旅先で知り合った方から、大人気の映えスポットだと教えてもらったのだが、立ち枯れの木々だけじゃなく、色とりどりの鯉まで泳いでいるという。鯉って思うように泳いでくれず手こずるのだが、鯉寄せ用の餌もあるそうなので安心だ。お勧めの時間帯を尋ねると、「そんな難しい場所じゃないけど、朝早くの方がいいよ」とアドバイスをいただき、夜明け直後に現地着するつもりが少し遅れてしまった。

私の撮る場所、残っているかな?
ヒヤヒヤしながら坂を下りると、広い芝生には軽トラのおじさんが一人。ガラガラだ。ちょうど入れ違いで、おじさんは大きな袋を軽トラに積んで帰るところだった。あれ、餌だよね。あと5分早く着いたら、餌やりシーンが撮れたのかなあ。ガッカリしながらも、無人販売の鯉餌をゲット。おじさんが来る前だと、鯉の餌は売ってなかったかもしれない。前向きに考えることにした。

水没林辺りを体をくねらせて泳ぐ鯉……。今回はイメージトレーニングもバッチリだ。三脚で構図を決めて、餌を投げては連写する。肩が外れそうなほど腕を振り、投げ餌を続けるが、予想外に遠くまで飛ばず、手前の水面ばかりが鯉渋滞。プロ野球のピッチャーだったら、水没林まで届くのかなあ。せめてもう少し遠くまで餌を投げてくれる男の人がいたらよかったのに。と、一人ぼっちの餌やりに無念をかみしめる。おまけに貪欲な鯉は、仲間を蹴落とそうと、水中で重なりあい、もつれあいながら泳ぐので、なかなか絵にならない。ちょっとずつ、広く撒けばいいのかな。試行錯誤、四苦八苦するうちに、水面に食べ残しの餌が浮いているのに気付く。冷静に観察すると、離れた場所に到達した餌は無視されて、どうやら負けず嫌いの鯉同士が競い合いに熱中しているだけのようだ。
「もしかして、ほとんどの鯉は、もうお腹いっぱいなんじゃ」。
おじさんからたっぷり餌をもらったのか、「もっと美味しいご馳走なら、食べてやってもいいけど」。そんな鯉のセリフが聞こえてきそうだ。餌の残骸が水面に残ると絵にならないので、私は餌やりをやめ、鯉任せで撮影を続ける。案の定、鯉って、泳いでほしいルートには泳いでくれないんだよね。また今日も、使えそうにない画像を大量生産してしまった。ビニール袋に半分くらい残った餌を眺めて、私はため息をついた。

   *

その日、角島の夕景撮影で、偶然、知人のMさんと会った。水没林のことを話すと、明日行ってみるという。朝一番の鯉の空腹時がいいという教訓を伝えて、残りの餌を託した。翌朝、周辺には朝日の名所もないので、ゆっくりめに起床すると、こんな時に限って朝焼けしそうな気配である。皮肉なものだが、無視するにはもったいないほど赤く染まりだした。空だけでも撮れないかと右往左往していると、Mさんの車が通りかかり、これから水没林に向かうという。

「???今から???」

この爆焼けをスルーして?いや、Mさんの走りなら間に合うのか?お互い話す余裕はなく、Mさんは走り去り、私は道の駅の丘に登った。眼下に見下ろす漁港と空を撮りながら、爆焼けの水没林はどんなだったろうと思いを馳せる。谷間なので、普通の日の出なら関係なさそうだけど、空いっぱいに朝焼けしたら、水面に映り込んだかも。あぁぁ。いつものことだけど、もうちょっと早く起きていたらな。逃した魚は大きそうで、心がチクチク痛む。

その後、Mさんから水没林までは間に合わず、途中で朝焼けを撮影した旨を聞く。いつかの参考に、爆焼けの水没林の作品を見てみたかったと残念に思う反面、心の狭い私は、ちょっぴりホッとしたのだった。

旅ノート

この池は砂防ダムで、水位の差が大きく、数年前は歩いて渡れるほど干上がったのだとか。また、増水で鯉が流されてしまうこともあり、昨年は200尾ほど放流されたそうだ。今回は、たまたま条件のよい時に訪問できたが、行かれる時は事前確認がお勧め。

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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2022年7-8月号

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