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「本日も晴天なり」(千葉県・大波月海岸)

Z 7II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/f16AE/1/320秒・-0.3EV/ISO200/RAW(CapturaNX-D/晴天/ニュートラル[輪郭強調+2・ミドルレンジシャープ+3・明瞭度+2・コントラスト+2・色の濃さ+3)/三脚/'21年2月18日6時40分/千葉県御宿町・大波月海岸

もうちょっと、もうちょっとだけ。

足元に迫る海水に危機感を覚えながらも、朝日に染まる情景があまりに神々しく、去りがたい。満潮には帰り道の岩場は沈んでしまうかもしれない。まだまだ撮りたい気持ちと、潮が満ちる勢いに、早く戻らなければという焦りが葛藤する。

初めてこの場所を訪れたのは、2017年の冬。横浜でのカメライベントの帰路、「せっかく関東に来たんだから」と、千葉の房総半島まで足を延ばした。まだ暗い5時前、朝日を撮ろうと現地に到着すると、海岸から三脚を担いだ人たちが次々と引き上げてくる。
「もう、帰るんですか?」
日の出はこれからなのにと尋ねた私は、「星が薄くなってきたので」の返答に衝撃を受ける。ガーン。その時初めて、ここが朝日の名所であると共に、天の川の名所でもあることに気付く。季節と方角でわかりそうなものだが迂闊だった。夜空には雲一つなく、天の川はさぞ見事だったろうなと想像できる。あと数時間、早く着いていれば……、逃した魚は大きすぎて愕然としたが、夜専門の星組の人たちがいなくなる頃、今度は朝日組の人たちが集まりだしたので、我に返って日の出を収めた。翌日からの天気は下り坂で星は全く見えず、地団駄を踏むほど無念で、来年こそはとリベンジを誓ったが、房総は妙に遠くて億劫で、あっというまに数年が過ぎていった。

   *

さて、今回も東京の仕事のついでに、「せっかくだから」と房総を目指した。が、4日後には富山の写真展会場へ行かなければならないので、日程には余裕がない。何もそんな忙しない時に反対方向の場所で撮らなくてもと言われそうだが、せっかくだし、房総でパパっと撮影したら、太平洋から日本海まで数日かけて列島を横断し、富士山や信州に寄り道しながらのんびりするつもりで出発した。しかし旅は初っ端から「のんびり」とはかけ離れたものになる。まずは下見と海岸に着いた夕方は、風速15メートルの強風で目を開けていられないほどだったし、翌朝からの潮風も私やカメラを塩漬けにするには十分で、すぐに霞むレンズの清掃にも手間どった。それでも数年越しの光景は格別で、一日滞在のはずが、明日はもっと、明日ももっと……と結局3日間、房総で朝を迎える。翌日、翌々日と、風が弱まるにつれ、カメラマンも増えていったので、私は岩場を少し歩いた先のやっと一人が入れるほどの洞穴に籠ることにした。浅い洞だが、奥まで入ると死角となり、視界には海だけが広がり孤独にひたれる。たまに波飛沫を浴びると、「ここで波にさらわれても、誰も気付いてくれないかも」とすこーし怖かったが。

もうちょっと、もうちょっと……もう限界かな。海上の天の川が消え、朝日が昇り、キラキラ光る海がどんどん近くなり、やっと撮影を終える決心がついて、干潮時に渡ってきた岩場を戻ることにした。来る時は露出していた岩場の一部は海になり、大波でも来たら足をすくわれそうだ。波が弱まるのを見計らい、滑らないよう注意深く急いで歩いて、朝日組の人たちが撮影に勤しむ広い岩場までなんとか無事に戻れた。平和な様子に安堵しながら、「ここでこんなにドキドキしているのは私だけだな」とおかしくなる。こちらとあちらは別世界だ。用心深い私にしては大冒険だった。

   *

3日間の荒行を終え、大急ぎで富山に向かう。時間がないのでどこへも寄らず、ひたすら走る。千葉はずっと晴天だったが、北陸は数日前から襲来した大雪で通行止めが相次いだらしく、「来れそうですか?」と心配してくれる写真展担当のTさんの言葉に「何を大げさな」と思っていたが、長野県の安房トンネルを越えた途端、除雪車がフル稼働の豪雪地帯に変貌したのには驚いた。ここにも隣り合わせの別世界あり。ほんの少しの移動で別世界にワープするのも、自然の奥深さや醍醐味なのかもしれない。

旅ノート

コロナワクチン接種2回目も済み、緊急事態宣言も解除。やっと心おきなく撮影旅ができそうです。昨秋はgotoトラベルで日本中がお祭騒ぎでした。今秋はもっと緩やかにささやかな旅を楽しみたいと思うのですが、どうなることでしょう。

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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2021年11-12月号

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