Nikon Imaging | Japan
ニコンイメージング会員の方は、5,000円(税込)以上のご購入で送料当社負担
もっと撮り旅 もっと撮り旅

花、美しく(群馬県・妙義山)

Z 7/NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/f16AE/1/20秒/ISO100/ RAW(Capture NX-D/晴天/風景)/三脚/'20年3月29日14時15分/群馬県下仁田町・妙義山

ぽたぽたと降り続く雪は、桜に舞い降りては消えてゆくのに、背景の山肌はあっという間に白くまろみを帯びてゆく。天気予報って当たるんだな。雪と桜の競演が撮れるかもと、スタッドレスタイヤを履いたままにしておいて良かった。

3月下旬、正体不明の新型コロナウイルスへの恐怖におののきながら、仕事でどうしても東京へ行かねばならず、公共交通機関に乗るのもためらわれたので、500キロの道のりを自分の車で走ることにした。上京ついでに今年こそは……。例年、ぐずぐずと桜旅の準備をしている間に、関東の早咲きの桜を撮り逃すので、あわよくばと仕事が済むなり群馬を目指す。妙義山に抱かれて花が咲いているだけでも十分なのに、雪とのコラボは想像以上に美しく、この年初の桜撮影は華々しく開幕した。

雪と桜で勢いづいた私は、それからしばらく関東周辺をうろついた。花粉症のおかげで、当時品薄だったマスクもふんだんに持っていたし、もともと、東京へ行くなら、潜伏期間の10日間ほどは、高齢の家族が住む我が家には帰らず、車中泊で桜を撮りながらゆっくり帰るつもりだった。馴染みのないエリアの桜は新鮮で、あっという間に毎日が過ぎていく。もちろん、慎重派の私はコンビニで買った食品も外装を消毒してから車内で食べ、入浴はぐっと我慢して入らず。人とも会わず会話もせず、うがい手洗いマスクに手袋と、完璧な感染対策をしていたが、一週間ほどたったある日、喉が痛くなり、37・3度の微熱が出てしまう。
これは……。
最悪の事態が頭をよぎる。唯一思い当たるのは、窓を開けて駐車していた時、隣の車の窓も開いていたくらい。「あの程度でうつるのか?」。症状が酷くなる前にと帰路を急ぎ、こうなったからには独力で闘病せねばと、家に戻らず、額装写真を保管している部屋に籠ることにした。1~2週間、一人っきりで寝込んでも大丈夫なように、経口補水液やおかゆ、うどん、レトルト食品、缶詰などを大量に買い込んだ後、パソコンだけ取りに自宅へ立ち寄る。ここで家族と接触しては元も子もないので、母には家の外に出てもらい、閉めたままの車の窓ガラス越しに、携帯電話で会話した。母の表情は「何を大袈裟な」とみじんの危機感もなかったが、「あんなに注意していてもダメだったんだから、そのうちみんな罹ってしまう。もう会えないかもしれない。」と涙を滲ませながら別れを告げた。

   *

さて、決死の覚悟で籠城を始めた翌日、あっけなく平熱に戻り、数日後にはのどの痛みもなくなった。それどころか、自力で治さねばと漲らせた戦意のせいか、無性に「ぶ厚いお肉」が食べたくなり、スーパーで物色。それから毎日のように、「今のうちに、今のうちしか」とステーキを食べ続け、特上寿司を食べ続け、眠りたいだけ眠り続け、ビタミン、サプリメント、漢方薬、ハーブティ、ストレッチと、知りうる限りの健康法を駆使し、なんだか普段よりずっと元気な気さえしていた。「新型コロナを克服した」と一瞬、息巻いたが、咳も出なかったし、倦怠感すらなかったので、たぶん単なる疲れだったのだろう。お籠り部屋には、テレビもネット環境もなかったが、あちらこちらで桜が例年以上に美しく咲いている噂は耳にした。けれど、自粛ムードの圧力に加えて、あの「うつっちゃったかも」という恐怖感を思い出したら、桜を撮りにいく気にはなれなかったなぁ。今思えば、ほとんどの日本国民が、花見よりスーパーやホームセンターに通っていたので、撮影より買い物の方がよっぽど危なかったのだが。

あれから一年。いまだにコロナ禍が続いているとは想像できなかったが、今年の春はどうなっているのだろう。世界中の人間が右往左往する中で、桜は相変わらず美しく咲き、儚く散ってゆく。今、桜を撮る撮らないの選択に正解はないのだろうが、いつか葛藤なく撮影に専念できる日常が戻るのを願うばかりである。

旅ノート

いよいよ始まる「絶景恋愛プラス」(今、勝手に命名)。当初、これまでの写真展の作品だけを予定していたのですが、延期された7カ月間に撮り足した「夜絶景」の作品を自分でプリントしてみたら、いい感じに仕上がったので、急遽、追加することに。約100点の絶景ワールド、ご覧いただけると幸いです。

※本文に掲載されているサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2021年3-4月号

公開記事一覧

行ったり来たり(兵庫県三木市)

詳細を見る

幸運の池(新潟県糸魚川市)

詳細を見る

これでいいのだ(和歌山県和歌山市)

詳細を見る

キラキラキラ(沖縄県竹富町)

詳細を見る

月の塔(滋賀県長浜市)

詳細を見る

夜覚め(岐阜県岐阜市)

詳細を見る

クリスマスプレゼント(富山県小矢部市)

詳細を見る

凍みる(長野県長野市)

詳細を見る

いざ、花の陣!(滋賀県高島市)

詳細を見る

水中花(長野県大町市)

詳細を見る

時代(愛媛県今治市)

詳細を見る

スノーキャッスル(岐阜県郡上市)

詳細を見る

月を追う(長野県松本市)

詳細を見る

乗せてって!(奈良県下北山村)

詳細を見る

木霊の森(徳島県上勝町)

詳細を見る

賞味期限(山口県長門市)

詳細を見る

雨名残(愛媛県四国中央市)

詳細を見る

運命の出会い(新潟県長岡市)

詳細を見る

毎夜毎朝(兵庫県朝来市)

詳細を見る

「会いたくて」(岩手県八幡平市)

詳細を見る

住めば都(秋田県北秋田市)

詳細を見る

蒼池繚乱(山口県下関市)

詳細を見る

「信じるものは、救われる?」(富山県・称名滝)

詳細を見る

「空っぽの」(奈良県天理市)

詳細を見る

「禊ぎ柿」(長野県長野市)

詳細を見る

「本日も晴天なり」(千葉県・大波月海岸)

詳細を見る

「行きはよいよい……」(大分県・金鱗湖)

詳細を見る

「星に願いを」(沖縄県・西表島)

詳細を見る

「仙境」(岐阜県高山市)

詳細を見る

花、美しく(群馬県・妙義山)

詳細を見る

黄昏刻(静岡県・黄金崎)

詳細を見る

迷える季節(長野県・聖高原)

詳細を見る

紅葉、どこまでも(宮城県・鳴子峡)

詳細を見る

エナジー (福井県龍双ケ滝)

詳細を見る

「夕焼け小やけ」(滋賀県東近江市)

詳細を見る