2023年10月に発売された中望遠単焦点レンズ「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」。「Plena」という固有名称の入ったレンズで、圧倒的な描写力や円形度の高いボケが注目を集めています。
今回は、全国の水族館を撮り続けるフォトグラファーのあきさん(@akira1027_photo)に、135mm単焦点レンズによる水族館撮影の魅力・醍醐味と合わせ、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaの描写性能や表現力について紹介していただきます。
こんにちは、フォトグラファーのあきです。「最高の瞬間を形に!」をテーマに、各地の水族館で生きものと空間が作り出す幻想的な瞬間を撮影しています。
今回は私が水族館撮影でよく使う135mm単焦点レンズについてお話ししたいと思います。
#135mm単焦点レンズを広めようじゃない会
135mm単が一番の主力レンズ pic.twitter.com/rzJtQvHwsY— あき (@akira1027_photo) 2020年1月8日
過去に135mm単焦点レンズで撮影した写真。
私にとって135mm単焦点は、水族館撮影の主力レンズです。
この記事では、水族館撮影における中望遠単焦点の魅力や表現力、そしてNIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaの描写性能を作例とともに紹介します。


水族館の生きものの魅力を引き出せるレンズ
水族館撮影では135mm単焦点とF2.8通しの14-24mmをよく使います。
- 135mm単焦点:小さい生きものに注目して撮影したいとき、イルカやシャチのパフォーマンスなどで水しぶきまでダイナミックに写したいときに活躍します。


近寄れない被写体や小さな被写体を主題にし、周囲をぼかし主題だけに視線誘導ができるのが、135mm単焦点の魅力です。
- 14-24mm:水槽の世界を俯瞰的に撮影したいときや、比較的大きい生きもの(50cm以上が目安)に寄って迫力のある写真を撮りたいとき、館内に望遠を使用するスペースがないときに使います。


135mm単焦点での水族館撮影の基本ポイント
まずは、水族館撮影における135mm単焦点の強みを紹介します。
水槽の奥にいる生きものであれば水槽のガラス面に近づいて撮影しますが、基本的にはガラス面付近に泳いできた瞬間を切り取るため、離れて撮影することが多いです。
背景を大きくぼかし、被写体を際立たせられる
背景を大きくぼかせるため、手前の被写体と背景を切り離せます。
中望遠×開放F値でピント面から少しずれるだけでボケるため、左側のトゲチョウチョウウオの顔をぼかし、本当に見せたい中央のホンソメワケベラに目がいくように写せました。
ピント面を鮮明に、かつ立体的に描写
2m程度離れたところで岩を登るオオイワガニを撮影しました。ピントが合った部分は質感がしっかり描写され、ピント面の前後すぐからなめらかにボケていくため立体感が得られます。
圧縮感とボケ感による表現
前景の水草はアオリイカより20~30cm手前に生えていましたが、圧縮効果でイカが草の中に隠れているように撮影しました。同じ焦点距離でもF2.8などでは草の質感が強く残り、ここまで溶けこんだ描写にはならないと思います。
小さい開放F値で暗所に強い
同じ露出で撮影するにもISO感度を上げすぎずに確保できるため、カラーノイズやディテールのつぶれが少なくなり、写真のクオリティが上がります。
上の写真は、暗い水槽を泳ぐクロマグロです。F1.8の強みを生かして、ISO1250程度で十分明るく撮影できました。
※こちらの写真は現像過程で露出を+1ほど上げて仕上げています。
ストレスを与えないよう離れて撮影できる
生きものから距離を取ることで、生きものへ与えるストレスが少なくなると考えています。
上の写真では、生まれたての赤ちゃんや子育て中のイルカは神経質になっているため、ストレスを与えないよう水槽から4~5m離れた位置から撮影しました。
水槽から離れて撮影するメリット
人が水槽前に立つと水槽ガラス面にはあまり近寄ってこない生きものも、離れることで近寄ってくれることがあります。
Z 8、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena/撮影地:鴨川シーワールド
ガラス面付近にいる生きものを撮影することで、色かぶりを抑制できるのもポイントです。上の写真では、青緑色をした水槽で、奥にいる個体を撮影すれば色かぶりがひどくなるため、ガラス面付近を泳いでいるところを撮影しました。
なお、水槽への映りこみは水槽や通路の照明が自分を照らし、それがガラスに反射している場合が多く、離れて撮影することで水槽面への自身の映りこみ防止にもなります。
135mm単焦点で魅力を引き出す被写体別ポイント
ここからは、被写体別に135mm単焦点での撮影のポイントを紹介します。
水族館撮影では、暗い環境下で動きが速い生きものほど難易度が上がります。まずは動きがゆっくりな生きものから撮影するのがオススメです。設定も記載していますので、ぜひ参考にしてみてください!
【クラゲ】主役を強調しながら、幻想的な世界観を表現


設定:(左)F1.8・1/160秒・ISO640、(右)F1.8・1/125秒・ISO320
クラゲ撮影では、主役とそれ以外を切り離すのが効果的です。
複数体いるとごちゃごちゃした印象になりやすいですが、主役以外をぼかす+主役に光が当たる瞬間を切り取ることで、クラゲをより魅力的に写し出せます。
また、クラゲの水槽は暗い環境であることが多いですが、F1.8という明るさによりISO感度を上げすぎなくても露出を確保できます。
設定:F1.8・1/80秒・ISO500
こちらは、数cmの個体のアンドンクラゲです。NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaは背景を大きくぼかし、ピント面をクリアに描写できます。
【ペンギン】身体全体を写しながら瞳にフォーカス
設定:F1.8・1/4000秒・ISO100
振り返りこちらを見るフェアリーペンギンを上から撮影しました。

40cm程度とペンギンの中でも最も小型の種類。深い青色をした毛は美しく、身体は小さくてかわいいのに、目つきはギラギラしていてかっこいい。このギャップが好きで、瞳にピントを合わせて撮影しました。
NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaでは身体全体を写しながらも、見せたい部分=瞳だけにピントを合わせて撮影できます。瞳から地面までは40cm程度しか離れていないのに、地面の石つぶさえ玉ボケに変えてしまう。四隅の玉ボケを見ても口径食が抑えられていて、きれいなボケを作れる最高のレンズです!
設定:F1.8・1/4000秒・ISO64
上の写真は、フェアリーペンギンの給餌の様子です。カタクチイワシは少し大きかったのでしょうか。くわえたままフラフラと歩き回っていましたが、フォーカスは常にペンギンの瞳を追従しているので、シャッターチャンスを逃すことなく撮影できました。
【カクレクマノミ】小さな生きものの世界を鮮明に写し出す
設定:F1.8・1/250秒・ISO500
3cm程度のカクレクマノミ。マイクロレンズほど小さな世界を写し出せるわけではありませんが、中望遠×開放F1.8のボケにより、イソギンチャクの前ボケも含めた環境と生きものを美しく写すことができました。
ISO感度を抑えて撮影できますし、数cmの身体の厚みのない生きものなら全体にピントが来ているように見えるため、水族館撮影で重宝します。
設定:F1.8・1/250秒・ISO640
水槽の真ん中から出てくる酸素の泡を玉ボケで表現しました。泡と魚の距離は30cm程度ですが、明るい中望遠レンズだからこそ美しい玉ボケにできたと思います。
【アザラシ】近寄れない被写体も雰囲気よく撮影
設定:F1.8・1/1600秒・ISO32
ゼニガタアザラシが気持ちよさそうな表情で目をつむりながら水面に浮かんでいました。屋外で見下ろすタイプの場所で、物理的に近寄れないため望遠撮影が適しています。
上の写真では、展示スペースの縁を画角の右下に前ボケとして少し入れることで、白くふわふわした幻想的な写真に仕上げています。ここまで大きくぼかした表現も中望遠単焦点レンズの強みです。
【トド】エサを食べる姿を躍動感たっぷりに
設定:F1.8・1/4000秒・ISO32
3~4m離れたところから飼育員さんが魚を投げ、トドがキャッチして食べるフィーディングタイム。エサが画角に入ってからトドが口にくわえるまでは0.5秒程度の世界です。
拡大写真
トドの瞳にピントを合わせて、左側から飛んでくるエサが視界に入った瞬間に撮影。トドの獰猛感溢れる表情やエサを何としても食べたい気持ちまで写し切るかのような大切な一瞬をものにできました。
開放F1.8の135mm単焦点から生み出される写真は背景ボケがなめらかで美しく、生息地である岩場であることを忘れさせずに、かつ主張させすぎない。背景をぼかしトドと分離することで、見た人はトドの表情に注意を向けられると思います。
【シャチ】パフォーマンスをダイナミックに切り取る
設定:F1.8・1/8000秒・ISO100
135mm単焦点の描写力により、その場で感じた迫力をそのまま写し取れます。シャチがジャンプする際に飛んだ水しぶき一つ一つを鮮明に写せるため、この写真を見れば撮影時の思い出までがよみがえってきます。
設定:F1.8・1/8000秒・ISO100
パフォーマンスは前方下段ほど見上げる構図、後方上段ほど見下ろす構図になります。今回はシャチに対して同じ目線で背景の海・青空とともに写したかったので、中段で撮影しました。
単焦点で狙った画角に収めるには、何度かパフォーマンスを見て知っておく必要があります。もちろんズームレンズのほうが動く被写体をとらえやすいですが、ばっちりハマったときの達成感や描写力の高さは135mm単焦点が格段に上です。
画角が決まっているので、「もうそれで撮影するしかない」とシャッターを切る瞬間にのみ意識を集中できるのはいい点ですね。
【海鳥】まれに水中を泳ぐ瞬間をとらえる
設定:F1.8・1/400秒・ISO2000
水族館の中でも、自然光の入らない水槽で泳ぐ海鳥は撮影が難しいです。そもそも常に水中を泳いでいるわけではないのでシャッターチャンスは非常に少なく、15分程度水槽を眺めていましたが、目の前を泳いだのは片手で数えられるほどでした。
F1.8によりISO感度を上げすぎずにシャッタースピードを確保でき、Z 8+NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaの組み合わせでは、画角に入った瞬間にAFがエトピリカを追従してくれて楽に撮影できました。
135mm単焦点での撮影の注意点
基本的には1匹に注目して撮影しますが、画角内にとらえ続けるのは広角や標準域に比べると難しいです。
私は、撮影前にカメラを構えずにぼーっと観察することが多く、その中で惹かれた被写体を主役に決めます。ペンギンなど動きがゆっくりな生きものはファインダーをのぞいたままで周囲を探してもとらえ続けられますが、動きが素早く画角から完全に外れた場合は肉眼で位置を見直したほうが見つけやすいです。
Photographer's Note
135mm単焦点レンズが写し出す水族館の生きものたちの世界、いかがでしたか?
画角への収めやすさなど望遠ズームレンズのほうが便利ですが、パフォーマンスなどで席が決められていて135mmという焦点距離がベストな位置に生きものが来たときは、唯一無二の最高の写真が撮れると考えています。
そして、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaは描写力が圧倒的でした。


シャチの写真を20%程度にトリミングしてみましたが、皮膚のしわや質感を写し出せるだけでなく、太陽光によるキャッチライトが入っているところも確認できます。さすがNikonの最先端技術です。
上の写真では、ピントを合わせた被写体を鮮明に写し出し、取り囲む白泡などすぐ後ろをぼかせるため、幻想的な世界を表現できました。
最短撮影距離は0.82mで、マイクロレンズほど寄れるわけではありませんが、135mm×F1.8の被写界深度の浅さで魅せたい部分だけにピントを合わせて撮影すると視線誘導がしやすいです。
上の写真は、5~6cm程度のスジオテンジクダイ。背景に構造物(岩や海藻)がない水槽では、生きものをスタジオで撮影したかのような写真が撮れるのもおもしろいです。
NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaは Z 8とセットで使用しました。全体的なバランスが非常によく、合計約1.9kgと決して軽いわけではありませんが、持つ手が疲れにくかったです。


左:元の写真、右:トリミング後
水族館の写真では後からトリミングをすることも多いです。その点、Z 8などの高画素機×NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaの描写力・解像度により、撮影後でも理想の構図を追求できます。
Z 8との組み合わせで特に驚いたのはAFの速さと正確さです。
イルカやシャチパフォーマンスでは、トレーナーが指示を与えてからジャンプするために水面から出る直前まで目視で追い、水面から出た瞬間に構図を微調整してピントを合わせて撮影することが多いのですが、ボディーとの組み合わせによっては水しぶきにピントを持っていかれたり、AFが迷子になったりします。その点、Z 8は一発でピントを合わせてくれたので、とても楽に撮影できました。
こちらの写真は、息つぎをして再び顔を水につけた瞬間を画角いっぱいに収めています。ムッとした一瞬の表情なども高速AFでシャープに撮れたのは、Z 8+NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaならではだと感じました。
NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaは、水族館撮影において大きな可能性を秘めたレンズです。
このレンズで、暗所での動体撮影などをしてみたいと考えています。マクセル アクアパーク品川のドルフィンパフォーマンス(ナイトver.)などでは圧倒的なパフォーマンスを発揮すると期待を膨らませています!
【撮影協力】
- 葛西臨海水族園
東京都江戸川区臨海町6-2-3
https://www.tokyo-zoo.net/zoo/kasai/
※営業時間や休館日、料金など詳細はHPをご確認ください。 - 鴨川シーワールド
千葉県鴨川市東町1464-18
https://www.kamogawa-seaworld.jp
※営業時間や休館日、料金など詳細はHPをご確認ください。

あき
SNSを中心に水族館の写真を投稿している。多いときは週に4回ほど通い、生きもののかわいい姿や癒やされるシーンを撮影。ダイビングのライセンスを取得し、水中撮影にも挑戦中。