こんにちは、フォトグラファーのまちゅばら(@mpmb7)です。これまで「オススメ紅葉スポット」や「モネの池」の記事などで主に岐阜県の魅力をお伝えしてきました。
今回のテーマは「月」です。
満月や三日月のように見た目に変化があり、写真の主題にも副題にも、風景のアクセントにもなります。月が昇る方角は日々変化するので他の被写体と合わせて撮る難しさがある反面、月があることによって夜の写真に+αの「素敵」を追加できるのがおもしろい部分です。


そんな月撮影について、事前に調べておくべきこと、そしてドラマチックに切り取るためのポイントを紹介します。
月撮影のために調べておくこと
月は日によって満ち欠けや出入りの時刻が変わり、時間によっても表情が変化していきます。撮りたい月を逃さないためには撮影前の準備が大切です。
【月の状態】満ち欠けや出入り時刻を確認


私は美しい満月や三日月を狙うことが多いのですが、月の満ち欠けや月の出・月の入り時刻は事前にチェックします。「月の満ち欠け」や「月の出」などのキーワードで検索をすれば、WEBでも簡単に調べられるのでぜひ試してみてください。月をアクセントにする場合には、マジックアワーの時間に撮るのも印象的な写真になってオススメです。
もちろん、天気次第ではその前後を狙うこともありますし、他の撮影をしていてふと見上げた月がきれいで撮ることもあります。
【場所】月をさえぎるものがないところ
月はさえぎるものがなければ、どこからでも撮れます。日や時間ごとの月の位置はアプリなどで確認するのがオススメです。私が使っているのは「サン・サーベイヤー」というアプリ(有料)で、方位・高度・時間など月の撮影に必要な情報を調べることができます。
また、月は地上風景と絡めることでより印象的になります。その場合、建造物と月が重なる時間にその角度から撮影できるポイントがあるか、月の昇ってくる軌道上で遮蔽物のなさそうな場所をGoogleストリートビューなどで確認しながら探します。
オススメの撮影場所
- さえぎるものがない海:周辺に高い山などがあると撮れる位置が限られてしまいますが、開けた海なら狙いたい位置で撮ることができます。
Z 6、NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
- 高い場所にある建造物:山の上の城や鉄塔のように高い位置にある建造物は、奥にさえぎるものがないことが多く、月と重ねて撮影しやすいです。
Z 6、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
月を魅力的に写すためのポイント
事前のリサーチができたら撮影です。ここからは、月を撮る際の大切なポイントを紹介します。
【機材】高画素のカメラと望遠域のレンズ
- カメラ:撮影後に写真を大きくトリミングすることも多く、Z 7などの高画素機のほうが有利ですが、そこまで大きくトリミングしない場合には2000万画素台のカメラでも十分です。また、月は動くのでシャッタースピードを長くして撮影することができません。そのため、高感度性能も大事なポイントです。


左:トリミング前、右:トリミング後
- レンズ:月を風景のアクセントとして小さく入れる場合は標準域でも十分ですが、大きく迫力いっぱいに写したい場合には望遠であるほど好ましいです。600m程度の超望遠域があると、トリミングしなくてもかなり大きく写せるため申し分ありません。今回の撮影では、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sと焦点距離が2倍になるテレコンバーター Z TELECONVERTER TC-2.0xを使用しました。


左:44mm、右:800mm
- 三脚:望遠レンズは重さがあるため、三脚は耐荷重の大きいものを選びます。私は「Leofoto LS-324C」や「BENRO TTOR34CGX35」を使用していて、どちらもブレの心配がなく撮影できます。ただ、800mmなどより大きなレンズを使用するのであれば、もう1段脚の太い三脚が必要だと思います。
【設定】露出時間は500ルールを目安に
- 撮影モード:マニュアルで、F値とシャッタースピードを調整します。
- F値:露出を確保するため、開放F値をベースに。
- シャッタースピード:「500ルール」と呼ばれる上限露出時間を決める目安があり、月の満ち欠けに関係なく「500÷焦点距離(35mm判換算)」で計算できます。下の2枚の写真は800mmで撮影したものですが、0.625秒より速くすれば月をブレずに写し出せることになります。


焦点距離800mmで、(左)2.5秒でブレあり、(右)1/10秒(=0.1秒)でブレなし
- ISO感度:上記の設定で適正露出を確保できるようにISO感度を調整します。撮影後の編集を想定し、ノイズが発生しないようISO500程度を上限目安にしています。
露出で変わる月の見え方
月の表面のディテールを写したいときは月表面に露出を合わせますが、露出を上げていくと「地球照」という、欠けて影になった部分を写し出せます。地球照を写したい場合は、ISO2000以上に上げることもあります。
Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S
- ピント合わせ:MFにし、超望遠で遠くの建造物と月を絡める場合は建造物にピントを合わせます。標準域で風景を撮るときは、月は小さく写るため厳密に合わせこまなくても、手前から奥まですべてにピントを合わせたパンフォーカスでOKです。
月景をドラマチックに表現するアイデア
月は単体で撮るよりも、風景と絡めることでより魅力的に写すことができます。
望遠の圧縮効果で巨大な月を建造物と重ねる
焦点距離:35mm判換算750mm
望遠の圧縮効果によって月を引き寄せ、背景に大きく写すことができます。上の写真では、絡める建造物から離れた位置(約6km)でクローズアップすることで、城とのサイズの対比により迫力のある月を写し出しました。超望遠でとらえる際は、建造物と月の位置ズレも大きくなるため、撮影位置の微調整が大事です。
神秘的な光景をつくり出す月明かり
焦点距離:130mm
海など水辺は、月明かりによって照らされ、神秘的な光景が現れます。
月が雲と山の真ん中の位置になるように、雲・月・山・街・海の並びを意識し、海を手前にして月明かりの道のようなイメージで撮りました。地球照を写し出し、小さくても月が際立つようにしています。
ミニマルに切り取りアート作品に
焦点距離:250mm
夜空に浮かぶ月を、最小限に要素を抑えて切り取るとアート作品のような1枚に仕上がります。上の写真では、真っ暗な空だけにならないよう、山のシルエットの層で三分割構図を意識しました。
焦点距離:210mm
また、要素を抑えながら、シルエットで遊び心を入れた作品撮りも楽しいです。この写真は、「獅子岩」という奇岩に月が重なるタイミングを狙って撮影しました。口にすっぽり収まるように地球照を写し出しています。ちょうどおもしろい雲が出ていてラッキーでした。
光条で月の輝きを強調
焦点距離:24mm
月撮影では基本開放F値にしていますが、絞ると光条が写し出され、輝きが増します。このときF8程度まで絞るのがポイント。月の存在を強調するように空に大きく余白を設け、手前の影を入れることで、大地が照らされていることが伝わるように。雪の大地を月光が照らし、冬の夜の冷えた空気を感じさせる光景を表現しました。
焦点距離:24mm
月は遮蔽物から顔を出す瞬間を狙うのもオススメです。光条がより強調され、額縁構図のように際立ちます。
雲越しで儚げな世界観を表現


左:35mm判換算15mm、右:400mm
雲が多い日は撮影向きではないと思われるかもしれませんが、雲におおわれることで光がにじみ、情緒豊かな世界観を表現できます。さらに引き気味で地上風景も絡めると、ぐっと雰囲気が出ます。地上がより暗くなるため、月が白とびしないぎりぎりのところまでISO感度を上げて露出を確保しましょう。
優しい雰囲気の夜以外の月
焦点距離:44mm
「月撮影は真っ暗な夜に」というイメージが強いかもしれませんが、月の出・入り時間によっては夕方や朝方でも撮影できます。明るさの残る空と月によって、優しい雰囲気に。上の写真では大きな木の上に来るタイミングを見計らい、地上を見守るように月を小さく写し入れました。
月を加えることで物語性のある1枚に
美しい三日月などがシルエットの光景に加わると、ストーリーを感じる写真になります。
夕焼けで浮かび上がる大きな木と子供たちのシルエットが、まるで切り絵のように見える1枚。アクセントとして月をプラスすることで、ノスタルジックな世界観に仕上げました。
月の合成でつくる世界
上の写真は、実は別々の2枚の写真を合成したものです。
(左)Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、(右)Z 6、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
左の写真の月を、Photoshopで右の写真に合うサイズに調整し、比較(明)で合成しました。ベストなロケーションとベストな月をそれぞれ組み合わせることで、表現の幅はぐっと広がります。
月の魅力を引き出す編集のコツ
月を大きく写すときは月が白とびしないような露出にして撮影し、編集でノイズが目立たないように現像します。なお、月と地上の露出差が大きい場合は、月が白とびしないぎりぎりまで露出を上げ、地上側のディテールも極力確保するのがコツです。
※編集にはLightroom Classicを使用しています。
編集前
Lightroom編集画面
月以外の部分が暗くなっているため、全体の明るさを持ち上げつつ、ハイライトを下げて月が明るくなりすぎるのを抑えます。
Lightroom編集画面
次に主被写体(城)をマスクし、月と比べて暗くなっている部分の露出を上げながらバランスを取ります。
Lightroom編集画面
その後、月をマスクして光量を抑え、黒レベルとテクスチャで月のクレーターを強調していきます。
Lightroom編集画面
最後に、月の周囲を含めてマスクし、落とした光量を戻し、かすみ除去をマイナスにして月明かりのにじみを表現します。


左:編集前、右:編集後
以上の編集で、月と手前の被写体のどちらも際立つ写真に仕上げることができます。
Photographer's Note
月の撮影は天気の影響を受けやすいため難しさを感じる反面、月が出ていれば微妙な天気でも雲模様と相まって幻想的な光景を見せてくれたり、皆既月食のような天体イベントなどもあり、飽きずに追い続けられる被写体です。
2022年の「中秋の名月」は9月10日。この記事を少しでも参考にしていただけるとうれしいです。
もちろん満月だけでなく、満ち欠けで変わる表情が月の大きな魅力です。今後も、新しい発想の風景と絡めたり、物語性のある月の写真を撮っていきたいと考えています。
月撮影におけるNikon機材
今回、Z 7II+NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sを使って撮影しました。
Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S ISO5000
Z 7IIは高画素機でありながら、感度を上げた際もノイズが抑えられて、風景撮影に使いやすい最高のカメラだと思います。描写力は夜間でも存分に発揮されていましたし、機動力の必要な場面でも取り回しがしやすいと感じました。また、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sはとても軽くコンパクトで扱いやすかったです。AFも速く、なおかつ描写もよくて文句のないレンズだと思いました。合わせて使用したテレコンバーター Z TELECONVERTER TC-2.0xも、画質の劣化を感じさせない素晴らしいものでした。
Supported by L&MARK
※上記以外の機材で撮られた写真は、過去に撮影されたものです。
まちゅばら / Hiroki Matsubara
岐阜県を拠点に、四季の自然風景や都市風景を撮影している。印象的な光を取り入れた色鮮やかな光景や、物語のワンシーンをとらえたような作風が注目を集めている。