定番標準レンズへの道
new Nikkor 50mm F1.4S

第九十七夜はnew Nikkor 50mm F1.4Sを上げます。脇本先生が作り上げた「ゴジューのイチヨン」。まさに世界標準となったNikkor-S Auto 50mm F1.4を改良するのです。はたして誰に白羽の矢が立ったのか。そして新たなニッコールの顔となる標準レンズは、はたしてどんなレンズだったのでしょう。ニコンF2時代からF5の時代まで基本設計を変えずに時代をかけ抜けた定番標準レンズ。そこにはどんな開発秘話や苦労話があったのでしょう。今夜はそんな定番標準レンズであるnew Nikkor 50mm F1.4Sを深堀していきます。
佐藤治夫
それでは開発履歴を見ていきましょう。光学設計報告書は昭和48(1973)年12月4日に提出されています。しかし当時の習慣では、仕事がひと段落した量産開始後などに報告書を提出する例が多かったのです。ご多分に漏れずこのレンズも同様でした。開発計画がスタートし、設計開始したのは1972年以前だった可能性が高いと思われます。1回目の試作開始(試作図出図)は1973年2月2日と記録されています。そして試作結果は満足なものではなかったようです。中心解像とフレアーの改良が必要と判断したと記されています。その後、修正設計を施して第2回目の試作が1973年11月24日に開始されています。この光学系が世に出た50mmF1.4だったのです。しかし光学系に留まらず、鏡筒のコンパクト化と更なる外観デザインの改良を試みます。鏡筒設計を一から見直した結果、光学系だけではなく鏡筒内部、外観デザインまでさらに一新して小型化されたnew Nikkor 50mm F1.4S(俗称後期型)が量産開始(量産図出図)は1975年3月29日。そして無事、1976年4月に国内発売されました。
それでは光学系の設計者は誰なのでしょう。新たな次世代標準レンズを設計したのは、誰あろう脇本先生の愛弟子、清水義之氏でした。まさに世界標準となったNikkor-S Auto 50mm F1.4に更なる改良を加えたのは愛弟子の清水さんなのです。師の作品に手を加える。更なる改良は苦難中の苦難。愛弟子清水さんの心境はとても複雑でした。元々清水さんは脇本先生から仕事を引き継ぐことが多かったようでした。実はNikkor-S Auto 50mm F1.4の特許は脇本先生と清水さんの連名で出願されています。おそらく清水さんが設計補助や量産設計の手伝いを請け負っていたのではないか思われます。このような親密な師弟関係であった清水師匠の心中は、強い緊張感で満ちていたでしょう。しかし同時にこの上ない幸福感も感じていたはずです。そんな言葉では言い表せない感情が、愛弟子清水さんの心の奥底にあったに違いないのです。ところが、試作量産履歴を調査していて新たな事実を知ります。帳簿によると2回の試作までは間違いなく清水さんが担当者でした。鏡筒改良まで行って製品化したニッコール渾身の一撃。ところが量産開始した時からこのレンズの管理担当者は松井靖さんに交代しているのです。これは私の想像ですが、おそらく多忙多産の清水さんは量産化を同僚に任せて、次の新設計に取り掛かったのだと思います。そのおかげで、私はてっきり新レンズが松井さんの設計だと長年信じ込んでいました。今回、詳しく調査して初めて真実が分かったのです。

それではニューニッコール 50mm F1.4Sの断面図(図1)をご覧ください。少々難しいお話をしますがご容赦ください。この光学系は典型的なガウスタイプの光学系です。絞りより前方が分離された凸凸凹の3枚構成で、後方が接合された凹凸と2枚の凸レンズからなっています。特徴的な設計テクニックとしては、前群凸凸凹の2つの凸レンズより凹レンズの方が屈折率の低いガラスを用いていること、加えて後群の接合凹凸も同様に凹レンズの屈折率が凸レンズより小さい、いわゆる新色消しダブレットで設計したということです。また、その後方の2枚の凸レンズも屈折率は高いのですが、第6レンズのみが2枚目の凹レンズより少し屈折率の低い硝材を使っています。一般の読者の方は意味不明かもしれませんが、この近軸量が光学設計の要なのです。高層ビルの建築に例えれば、基礎工事が近軸設計です。基礎工事をおざなりにすると建つはずのビルが建たなくなります。その例え通り近軸量が光学設計の要と言うわけなんです。ここでポイントになるのがペッツヴァールサムと言う近軸量です。良い機会なので、簡単に考え方をご説明しましょう。
ペッツヴァールサムは以下のような近軸量の単純式で求まります。
P.S = Σ(1/(n×f)) …式(1)
ただし、n=ガラスの屈折率、
f=個々のレンズの焦点距離(mm)
この値が0になれば近軸領域では像面がフラット(平面)になります。また、この値によって決まる像面をペッツヴァール像面と言います。と言うことはガラスの屈折率と凸凹それぞれの焦点距離を最適値にしておかないと、いくら収差補正を試みても像面湾曲は原理的に無くせないという事なのです。また対物レンズは、いくら沢山レンズ枚数があろうと、合成では凸レンズです。したがって、一般的な収差補正がなされた対物レンズなら、定性的には球面収差や他の収差はマイナスの収差を残存させているはずなのです。それならば、ペッツヴァールサムは0から少しだけプラスの値をとることで、周辺像面まで良像範囲を広げることが可能になります。狭角の望遠鏡や暗い望遠対物レンズの場合、さほどペッツヴァールサムに目くじらを立てずとも設計出来てしまいますが、大画角になればなるほど光学性能に対して支配的なファクターになります。ところが、話は凸凹接合ダブレット(凹凸接合ダブレットでも同じ)に限定しますが、基本的に凸レンズの屈折率が凹レンズより低くなければ、良好な球面収差の補正が出来ません。したがって、ガウスタイプの場合、接合レンズの屈折率が凸>凹になる場合、その接合レンズの接合面の球面収差補正効果は期待出来ません。したがって、その接合面は大口径化の妨げになってしまう可能性があります。解決策は接合ダブレットではなく凸凹分離すれば、四方八方丸く収まるという寸法です。しかし、話はそうは簡単にはいきません。ここで問題になるのが色消し効果です。色収差補正のためには、やはり接合することが最も効果的です。そこで、ついでにもう1つ学びましょう。色消し条件(二色の色消し条件)です。
Σ(1/(νd×f))=0 …式(2)
ただし、νd=アッベ数(ガラスの分散を示す数)
f=個々のレンズの焦点距離(mm)
例えば凸凹2枚構成の天体望遠鏡対物レンズの場合は、
1 𝑓1ν1 + 1 𝑓2ν2 =0 …式(3)
第1レンズは凸レンズなので焦点距離がプラスですが、第2レンズが凹レンズなので焦点距離がマイナスです。従って、凹凸2成分でこの式は成立できるわけです。
ここで問題になるのが硝材選択の自由度です。以下のグラフをご覧ください。光学ガラスには以下の様にnd-νdで表すガラスマップ図があります。縦軸がd線屈折率で横軸がアッベ数です。図の様に使用できるガラスの分布には、ある特定の傾向があります。

この分布を見てお分かりかと思いますがアッベ数が大きい(=分散が小さい、低分散)ガラスは屈折率が低く、屈折率が高くなるとアッベ数が小さくなる(高分散)になる傾向があります。対物レンズの色消しをする場合、凸レンズが低分散、凹レンズを高分散の硝材で構成する必要があります。今ではガラスメーカーの絶え間ない努力のおかげで、こんなに豊富な硝材がラインナップされています。しかし、まさにペッツヴァールサムを発明し定義したペッツヴァール先生ご本人が活躍された時代(1840年頃)の光学ガラスは、ガラスマップ(図2)の「K(クラウンガラス)」と「F(フリントガラス)」のみでした。したがって自然と屈折率の相対的な関係が凸<凹となり、特にダブレットを基本に考えた場合、色消しとペッツヴァールサムの両立が出来なかったのです。今でこそLaSKやLaSFの硝材が発明されて屈折率が凸>凹となるガラスの選択ができるようになりましたが、ペッツヴァール先生の時代は困難だったわけです。何とも皮肉なことに、ペッツヴァールサムを考え出した張本人のペッツヴァール先生ご自身が、この大法則に最も苦しむ結果になったのです。
いかがでしょうか。少し難しい内容だった思いますが、何となくでもご理解頂ければ嬉しいです。この新しいLaSKなどの新しいガラス(=新ガラス)の開発量産成功によって、凸凹接合ダブレットでも色消しとペッツヴァールサムの両方を成立できる可能性が生まれてきたのです。ところが、まだ1つ大きな問題が残っていました。それは球面収差の補正です。先の説明の様に、凸凹レンズの屈折率が凸>凹の関係では、接合面で負の球面収差の補正ができません。そうなんです。接合をしていると負の球面収差の補正が困難で大口径化を阻害するのです。そこで接合凸凹を分離して、少しだけ空気間隔を空けることで設計自由度を確保したのです。この分離ダブレットの起用は、ペッツヴァールサムの最適化と色消しの効果を備えつつ球面収差の補正も可能になる構成だったのです。ここまでの説明のポイントは、新ガラスによる「新色消し分離ダブレット」が凸凹色消しダブレットにおいて最も設計自由度が高いということです。
それでは本題に戻ります。ニューニッコール 50mm F1.4Sの構成を思い出しましょう。ニッコールオート 50mm F1.4では前群も接合ダブレットでした。ところが、ニューニッコールでは分離しています。清水さんは大口径ガウスレンズの設計を熟知していました。F1.4、画角46°という大口径レンズを周辺まで高性能にするために、ペッツヴァールサム設定の自由度を最大限確保すること。それがこの構成と硝材選択であったことが良く分かります。

第3図にニッコールオート50mm F1.4の断面図を記します。いかがでしょうか、第2,3レンズが接合になっています。硝材選択はやはり凸>凹の屈折率になっており、いわゆる新色消し接合ダブレットです。したがって接合面では負の球面収差補正が出来ません。後群の接合レンズの硝材選択も同様です。この構成はペッツヴァールサムの最適化に対して、より高い自由度を持たせることが出来ます。従って像面湾曲、非点収差等の軸外収差の補正能力が高くなり、周辺性能向上に対して大きなポテンシャルを持つことが出来ます。しかし、球面収差の補正能力と言う観点では、不利な構成になるわけです。特にF1.4と言う大口径を実現するには大きな試練が待っていたと思います。今更ながら脇本先生の並々ならぬ努力の一端が理解できた思いが致します。
話を戻しますが、一見してニューニッコール50mm F1.4Sは、ニッコールオート50mm F1.4の第2,3レンズを分離しただけなのでは、と思われるかもしれません。しかし実際は硝材が全く違い、各レンズの屈折率は軒並み高くなっているのです。一般的にレンズの屈折率は高ければ高いほど、単色のザイデル五収差の補正自由度が増します。また光路長も屈折率に比例して増しますので、薄肉化、小型化の可能性も高まるということです。清水師匠は当然その自由度を見逃すわけはありません。師匠の脇本先生の銘レンズを更なる高性能に進化させました。しかも更なる小型化を実現して、新たなニッコール定番標準レンズを完成させたのです。
まずは設計データーを参照しましょう。以前お書きした通り、評価については個人的な主観であり、相対的なものです。参考意見としてご覧ください。
それではニューニッコール50mm F1.4Sの収差補正上の特徴を無限遠性能と至近性能を観察していきましょう。先ずは無限遠時の収差性能から見ていきましょう。初めに球面収差と軸上色収差です。この2つの収差は中心画質に対して支配的な影響力があります。軸上色収差は微量ですが過剰補正傾向にあります。瞳いっぱいの光線に対してはg線がオーバーになっています。この補正方法は軸上色収差の2次分散を見かけ上減少させることが出来る有効な補正方法です。したがって各色の点像のまとまりが良く、発色も良くなりますし、白色MTF値も上昇します。しかしながら欠点もあります。いわゆるパープルフリンジの発生確率が増えてしまいます。ガウスタイプ自体がそもそも異常分散ガラスとの相性が良くないので、この不成立が常に問題となり、光学設計者の頭痛の種なのです。それでは球面収差を観察しましょう。球面収差は瞳周辺の光線がオーバーになる、いわゆる脇本バランスになっています。開放では若干フレアーがあるものの、高解像力が期待できます。次に周辺性能に影響が大きい収差を見ていきましょう。先ずは像面湾曲と非点収差です。像面湾曲はほのかにマイナスしていますが、非点収差の発生を極力おさせた大口径レンズとして最適なバランスになっています。ほぼ像高9割まで非点収差が補正されています。非対称コマ収差は最周辺までよく補正され、メリジオナル方向の点像の対称性を保っています。倍率色収差も像高8割まではほぼ無視できる量に収まっており非常に優秀です。しかし、ガウスタイプ特有の欠点でもあるサジタルコマ収差はやはり発生しています。サジタルコマ収差の影響で像高5割から周辺では程度の差こそあれ、点像がカモメ形状になります。最後に歪曲ですが無限遠被写体に対して約-1.5%と小さい値に収まっています。
それでは近距離収差変動を見ていきましょう。無限遠では球面収差は瞳最周辺の部分だけ、ほんの少しプラスに残存させる脇本バランスになっていると先に書きました。この脇本バランスなのですが、なにも無限遠の高解像力を得るためだけで実施しているのではないのです。ガウスタイプをはじめとする対称型対物レンズは、無限遠物点合焦時を基準にして、全体繰り出しにより近距離物点へ合焦する際の収差変動は、定性的に球面収差、像面湾曲、歪曲、色収差など殆どの収差がマイナス方向に変位します。また軸外横収差では外コマ傾向に変位することが多いのです。したがって脇本先生がこの撮影倍率変化による収差変動をどう抑え込むか、という永遠の課題を研究した結果、この収差補正バランスに至ったわけです。脇本バランスを大まかに説明するなら「各収差を無限遠時には少しずつ過剰補正にしておく収差補正方式」と言えます。まさに収差変動まで意識した収差補正方法の総称が「脇本バランス」だったのではないかと思います。清水師匠の設計案もまさに基本は脇本バランスの真髄を貫いていました。しかも脇本先生以上に、見事に収差変動を小さく抑え込むことに成功しています。
次に遠景実写結果を見ていきましょう。今回はニコン ZfにFTZ IIを用いて撮影し評価をいたしました。
それでは、各絞り別に特徴を箇条書きに致します。評価については個人的な主観によるものです。参考意見としてご覧ください。
F1.4(開放)
中心部分から像高7割までの領域では比較的良好な解像力を有している。ひと時代前の大口径レンズ特有のフレアーが全面にあるが、その量は同クラスのレンズに比較してかなり少ない。軸色収差、倍率色収差の影響ではなく、球面収差の色収差起因のパープルフリンジが発生している。しかしその量は同クラスのレンズと比較し決して過剰なものではない。
F2
一段絞ってフレアーが急減。コントラストが向上。しかし逆に中心付近の解像力が若干落ちた気がするが、周辺部分の解像力は改善した。中心のベストフォーカス位置の移動が若干発生した結果かもしれない。色にじみは周辺部のみ残るものの、中央部分はほぼ消失。
F2.8
全面のフレアーがほぼ消失し、中心部の解像力も復活。全面良好な画質になった。しかしまだ若干色にじみは残っている。画面全体的に高コントラストにはならず、階調性がとても豊かで、ポートレートにはお薦めの絞り値である。
F4
さらに高画質化する。特に中心部のコントラストも上昇し、解像力は向上する。最周辺まで色にじみはほとんど目立たなくなる。
F5.6
画質が全面でさらにシャープネスが向上した印象。申し分ない画質。色にじみが全く消えた。
F8
画質が全面でさらにシャープネスが向上した印象。F5.6をもう一段シャープにしたイメージ。申し分ない画質。
F11
均一で全面最良な画質。申し分ない画質。このレンズの推奨F値はF5.6~11であろう。シャープネスが必要な時はF5.6~11で撮影すると良い。
F16
コントラストは良いのだが、ボテツキで解像力低下が発生し、結果的に全体画質の低下がこる。回折の影響と思われる。通常撮影ではやはりここまでは絞らないほうが良い。
それでは、作例写真で描写特性を確認してみましょう。今回もすべて絞りは開放F1.4で撮影しています。
毎回の事ですが作例はレンズの素性を判断して頂くため、ピクチャーコントロールをポートレートモード等の、できる限り輪郭強調の少ないモードを使っています。また、特別な補正、シャープネスや輪郭強調の設定は行わないようにしています。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/8000sec
露出補正:±0EV補正
ISO:360
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め2
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日:2025年 1月
作例1は比較的遠景の被写体を選んだ写真です。ピント位置はしめ縄です。画質を確認するため、あえてDライティングを強めにして暗部を持ち上げています。木葉、屋根瓦、などを観察すると中心部のみではなく周辺部分までそつなく解像していることが分ります。また、前ボケがきれいで好印象です。いわゆるグルグルボケ現象は見受けられません。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/4000sec
露出補正:±0EV補正
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日:2025年 1月
作例2は遠景から少し近寄った時の作例です。完全逆光の写真です。ピント位置は金柑の実です。ピント面の解像力は良好です。この作例で確認しておきたいところが、合焦点前後の描写特性です。まず、前ボケの連続性は自然で非常に良好です。後ボケ方向の描写は、必ずしも良好とは言えません。ボケ像に強めのエッジが確認できます。本作例の後ボケ部分の被写体は、逆光で非常に強い明暗比を有し、細かい高周波成分の多い被写体でした。ある意味、ボケ味に対しては最も過酷な評価でした。しかし二線ボケの発生は認められませんでした。したがって、この条件における後ボケ描写の判定は「可もなく不可もなく」と言うところでしょうか。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/2000sec
露出補正:-0.7EV補正
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日:2025年 1月
作例3 はさらに近寄った中間距離で撮影した作例です。ピント位置は彫刻の獅子の眼です。特に中心部分は高い解像力を持っていることが分ります。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/800sec
露出補正:-0.7EV補正
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日:2025年 1月
作例4はさらに近寄って撮影した作例です。ピント位置はやはり彫刻の獅子の眼です。中心部分のみならず中間部分まで高い解像力を持っていることが分ります。後ボケはまずまずというところでしょうか。ボケ味は被写体の周波数成分や輝度比で大きく変わります。作例2は逆光で非常に強い明暗比と細かい高周波成分の多い被写体でした。ある意味、ボケ味に対しては最も過酷な評価だったのです。しかし作例4では明暗比が比較的少なく、被写体もさほど細かくない状態です。このレンズは作例4程度の条件では良好な後ボケを作ることが分りました。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/1250sec
露出補正:-0.7EV補正
ISO::400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め
ピクチャーコントロール:フラット
撮影日:2025年 1月
作例5は近距離領域で撮影した作例です。ピント位置は狛犬の目です。中央部分の解像力もコントラスト再現性も良好です。この撮影距離のボケ味は美しいとまでは言えませんが、所謂二線ボケの発生を一歩手前で堪えています。後ボケの構成は、ちょうど作例1と4の中間的な輝度比と周波成分を有した被写体でした。まさに、このレンズは三次元描写の観点からも十分実用に耐えそうです。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/1600sec
露出補正:-0.7EV補正
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:フラット
撮影日:2025年 1月
作例6は最至近一歩手前で撮影した作例です。お地蔵さんの目がピント位置です。この心地よい解像感とコントラスト、発色。前後のボケ味を含めた良好な三次元描写特性。この作例を観て頂ければ一目瞭然。もうこれ以上何も付け加えることはありません。手前味噌ですが、この作例はニューニッコール50mm F1.4の描写特性を、まさに十二分に表現できていると思います。

ニコンZf+FTZ II
new Nikkor 50mm F1.4S
絞り:F1.4開放
シャッタースピード:1/640sec
露出補正:±0EV補正
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日:2025年 1月
作例7は至近0.45mにて撮影した作例です。「納」がピント位置です。コントラスト、解像力ともに良好なことが分ります。前後のボケ味を見ると、輝度比の高い部分はエッジの強いボケを生んでいます。しかし、輝度比の低い所のボケはなだらかなことが見て取れます。作例6のボケ味と比較してみてください。同じレンズの描写とは思えないでしょう。このようにボケ味の評価は難しいのです。輝度比と被写体の周波数成分、ディフォーカス量を規格化し多様な条件で撮影して、その多数の画像から総合判断しなければなりません。



皆さん「空気レンズ」って何のことだか分かりますか?これから空気レンズについて説明いたします。先ずは図4をご覧ください。これが一般的なレンズですね。空気中にレンズが置いてある場合、前後は空気ですから屈折率(相対屈折率)は1.0です。その中に例えば屈折率1.5の硝材が置いてあるとしましょう。この場合、光線はスネルの法則に従って境界面で屈折するわけです。それでは次に図5をご覧ください。2枚のレンズが接近して配置されています。それぞれのレンズで図4の「空気:ガラス:空気」という様に「ガラス:空気:ガラス」という順番で「屈折」を考えることが出来ます。しかし説明なしにレンズ図を眺めれば、レンズとレンズの間の空気間隔がどうであれ、見た通りに複数のレンズが並んでいるなぁと思うのが自然ですね。しかし先に説明した様に、この狭い空気間隔をレンズに見立てる考え方もできるわけです。そこでこの空気間隔に対して「空気レンズ」という概念を考えて定義した光学設計者が現れたのです。それは図5の「2枚のレンズに挟まれた空気間隔を“ガラス(n=大):空気(n=小):ガラス(n=大)”の通常とは反対の働き(屈折)をする光学素子と捉える」という考え方です。これを称して「空気レンズ」と呼びます。それではこの概念のどこが便利かと言いますと、「凸形状の空気レンズが凹レンズとしての働きをする」ということなのです。また一般に空気レンズの厚みが薄いほど、空気レンズの局所的な面屈折力が強くなります。したがって、空気レンズは大きい収差、特に高次収差の発生面になりやすいと考えられます。しかし毒も使い様。まさに「毒をもって毒を制す」。上手く利用することで、収差補正に大いに貢献できるのです。実際に光線を通した例を図6に示します。図6に示す光線1,2,3は無限遠からの平行光です。この光線の空気レンズ部分における屈折角の違いを見てください。少し分り難いかもしれませんが、光線1,2に比較して光線3はより強い屈折をしています。この偏角が線形的な変化で増加するのではなく、極端な非線形的な変化を与える事も可能なのです。例えば端の光線だけ極端に屈折させられれば、入射高の高いところで極端に大きい収差を発生させられます。そうすればこの空気レンズによって、高次収差がコントロールできる様になるのです。この先人が定義した空気レンズとは、ただ単に空気中に分離したレンズが存在していると言う一見した外観では判断できません。空気レンズの発見は、各レンズを接近させることで、その空気間隔の両側の面に強い屈折効果を生成させ、その高次収差をコントロールして収差補正をする設計法の提案だったそのもだったのです。清水師匠はこの空気レンズを有効的に使うことで、構成枚数を増すことなく脇本先生の50㎜F1.4を凌駕し、さらに高性能化したのです。
皆さんも光路図を眺めるとき、そこで何が起きているのか推理してみてはいかがですか。推理小説並みに面白いです。ハマると光路図の虜になるかもしれません。そのうちに光路図が酒の肴になるかもしれませんよ。知らず知らずのうちに…。気が付けば貴方はもう立派な光学マニアの仲間入りです。