
ゆっくりと舞う雪に包まれる静寂。
夕焼けと夜の間の薄明。
潮が引いた海辺にできた水たまりーー
さまざまなうつろいゆく光景を、やわらかく包み込むように写し取るのが写真家・岩倉しおりさんの写真です。
今回は岩倉さんに、クラシカルなデザインが魅力のカメラ「Zf」と、Kenkoのレンズフィルター「ブラックミスト No.05」を使用し撮影していただきました。
何気ない場所が、ふと美しく見える瞬間。身近な風景のなかにある、静かで繊細な美しさ。岩倉さんはその一瞬をどのように見つけ、写真に残しているのでしょうか。
岩倉しおりさんの旅の記録
――はじめに、こちらの幻想的な写真について教えてください。


これは香川県の海で撮った写真です。潮が引いたときにできる水たまりで2月に撮影しています。よく行く場所です。
時間は夕方の17時〜18時頃で、夕日が沈んだあとの空がグラデーションになっていく時間帯でした。
この日は風がなくて、水面のリフレクションがとてもきれいに出ていました。こういう写真はなかなか条件が揃わないと撮れませんが、何度か通うことで条件の良い日に撮れた写真です。


こちらも同じ場所で同じ日に、夕日が沈む前に撮った写真です。
ーー撮影は2月とのことですが、瀬戸内海の空は季節によって違いがありますか?
冬の方が光に透明感があり色も少し淡い感じになるような気がします。



これは2月上旬に岡山県の湖で撮った写真です。降っている雪が撮りたいなと思って、天気予報を確認して行きました。
ここ最近は、冬の世界観が好きなんです。瀬戸内海の地域は雪がほとんど降らないので、冬の景色をあまり撮ったことがありませんでした。
でも北海道に行ったときに、冬の美しさにびっくりして。静かで繊細なものが好きなので、その感覚に一番近い季節って冬だなって、自分の感性にすごく近い季節なのかなと思って、冬が好きになりましたね。
――確かに岩倉さんの写真は、すごく繊細な雰囲気がありますよね。触れたら崩れてしまいそうな。夜のシーンはどちらでしょうか?

これは鳥取県の黒坂駅という無人駅で撮った写真です。夜の雪景色の中で街灯の明かりが柔らかく広がって、より幻想的な雰囲気になったと思います。


これは瀬戸内海の島に行った日の写真です。何度も行ったことがある島で、船の上から手元と海のきらめきを一緒に写したらきれいかなと思って撮りました。
普段の撮影は、旅行と撮影を楽しみながら過ごしています。お菓子を食べたり座って海を眺めながら話したり。遊びと撮影が一緒になっているような、穏やかな時間の中で撮影しています。
――この写真に限らず岩倉さんは、有名な撮影スポットではなく、身近な場所で撮られている印象があります。
そうですね。なんでもないところ、自分がいいなって思ったところを撮るのが楽しいですね。
水辺や空の色が映るところ、波紋の様子、きらきらした光とか。そういうものが好きで自然と撮っているのかなと思います。あと、瀬戸内海が近いところに住んでいることも、たぶんありますね。身近にある見慣れた風景を自然と撮っているんだと思います。


ブラックミスト No.05とZfで写す空気感
――岩倉さんはKenkoのレンズフィルター「ブラックミスト No.05」を愛用されていますが、使われるようになった理由は何ですか?
フィルムカメラだけでなくデジタルカメラも取り入れていこうと考えた時に、フィルムの質感に近づけるためのものをいろいろと探していました。そのときに見つけたのが、ブラックミスト No.05でした。
デジタルは、パキっとした仕上がりになりますが、フィルターをつけるとフィルムの質感に近づくだけでなく、ふわっとした効果が出ます。写真が温かい空気を持つようになるのがいいなと思い、それからずっと愛用しています。
この記事の写真は全部付けて撮りました。
※一部比較のためにフィルター無しもあり
――今回、フィルターの有り無しも撮って頂きましたね。
はい、読者の皆さんに違いが分かりやすいよう、効果がよく出るシーンを選んで有り無しを撮ってみました。
夕日のシーンでのフィルター有り無し


私の写真はシルエットのみや顔を映さない写真が多いのですが、フィルター無しだと影の部分が真っ黒になってしまう感じがありました。フィルターがあった方が夕日の光を受けて輪郭も柔らかくなり、肌の感じもほんのり出てきます。
船のシーンでの有り無し


水面の反射もふわっとした表情に変わりました。
モデルの手元もコントラストが落ち着いて優しい雰囲気が感じられると思います。
夜のシーンでの有り無し


少し薄暗くなってくる時間帯や夜によく撮るので、街の明かりやランプの明かりを利用すると、光がふわっとにじんで、より幻想的な印象になります。雪のシーンだと、その雰囲気がより強調されると思います。
――Zfはいかがでしたか? 岩倉さんの作品撮りのために役立ったポイントなど教えてください。
まず見た目がクラシックですごく可愛いなと思って、持っていて嬉しかったです。あとダイヤルを回して操作するところがフィルムカメラと近い感覚で撮れるので、使っていて楽しかったですね。
――Zfは、どういった方におすすめできるカメラだと思いますか?
フィルムカメラ好きの人には、入りやすいデジタルカメラなんじゃないかなって思います。あとフルサイズですが女の子でも持ちやすいサイズなので、本格的に一眼を始めたいという方におすすめです。
――今回は、40mmと28mmを使っていただきましたが、多くは40mmでしたね?
普段から単焦点レンズを使っていますが、今回は多くのシーンを40mmで対応できたので、とても撮りやすかったです。日が沈んだ後の海辺のリフレクションの写真だけは広く見せたかったので、そこだけ28mmに変えました。
あと光の捉え方も好きだなって思いました。フィルターの効果もあると思うんですけど、ふわっと柔らかく、それでいて白飛びせずきれいなグラデーションを再現できたと思います。
――今回岩倉さんの一番お気に入り写真は?
雪のなかで女の子が上を向いている、この2枚が私はすごく気に入っています。


雪の中でもピントがしっかり合ったので、とても撮りやすかったです。普段はオールドレンズを使っていて、ピントはマニュアルで合わせていますが、今回はオート(Aモード)で撮れたのがすごく良かったです。雪の中の写真はレタッチもほとんどしていません。色がとてもきれいですよね。
――撮影時、イメージまで固められますか? それともその場に行って決められるのでしょうか?
両方ですね。こういうシチュエーションや組み合わせが素敵だなと思ったことをメモに書き留めているんですけど、そのメモに近い情景が現れたらメモを思い出して撮ることもありますし、その場で思いついたものもあります。
――ブラックミストを使ってこれからの季節はどのようなシーンがおすすめですか?
春だったらやっぱり桜がおすすめですね、夏だったら海や空、入道雲。冬は雪ですね。秋は、あまり写真を撮らないのですが月が好きなので、秋は月をよく探しています。
――昨年出された写真集も三日月を意味する『crescent(クレセント)』というタイトルでしたね。
そうですね。月を見ていると、「この世にこんなにも美しいものが普通に存在している」というのがすごいなと思っていて。美しいだけじゃなく、太陽と違う動きをして、見える時間帯も違う、さらには形も変わる。すごく不思議で面白いなって思っています。アプリを入れて、今日はこの月が何時くらいに見えるというのを確認しています。三日月と満月が好きです。
岩倉しおりさんが大切にしていること

――岩倉さんが写真を撮るときに大切にしていることを教えていただけますか?
美しい瞬間を撮りたいという気持ちが強いので、この場所なら、どんな条件が揃ったときに「一番美しく見えるか」を考えて撮るようにしています。身近な場所でも、時間帯や天候といった条件によって見え方が変わるのが面白いんです。
写真をやっていなかったら、深夜や早朝に外へ出て写真を撮ることはしていなかったと思います。でも実は、何でもなかった池が早朝に見たらすごく幻想的に見えることがあって。なんでもないところが美しく見えた時に感動があるんです。どんな場所でも美しくなる瞬間があるんだなって。

自分が寝ている間にも、別の場所で美しい瞬間が生まれている。そんな瞬間が身近にあふれていることを知りました。写真をやっていなかったら、たぶんこんなに感動していなかったと思います。カメラがあることでいろいろなことに気づけましたし、気づける自分になれました。それを写真として残して、「こんな美しい風景があったよ」と共有もできるんです。
――2025年は、写真集『クレセント』も発売されましたが、以前の自分と今の自分で変化を感じていますか?
より静かで繊細だとか、夜とか静寂な時間が好きなんだなということを実感した期間だったなって感じています。
――岩倉さんは、今後写真家としてどのようにありたいですか?
特にこうなりたいとかは、全くなくてですね⋯⋯ずっと同じように美しいものを撮り集めていくことを続けていけたらいいなって思います。

岩倉しおりさんが愛用するブラックミスト No.05に関する記事がKenkoのウェブサイトでもご覧いただけます。記事はこちら
岩倉しおり
香川県在住の写真家。うつろう季節の光をとらえたフィルム写真が反響を呼んでいる。地元、香川県で撮影した写真を中心にSNSで作品を発表する他、CDジャケットや書籍のカバー撮影、写真展の開催など幅広く活躍。2019年3月、初の写真集『さよならは青色』(KADOKAWA)を出版。2025年10月、写真集『crescent』(ミツバチワークス)を出版。


