グランプリ 「寒暁の舞」
眞野 瑞己(愛知)
コミュニケーションの場としてのフォトコンテストの意義
ニッコールフォトコンテストは今回で第73回を迎えましたが、その長きにわたる歴史と伝統の重みを大切にしながら、新たな展開を感じさせる回となりました。
今回の審査は、写真家の中藤毅彦さんとGENIC編集長の藤井利佳さんをお迎えし、新体制になって2年目となるニッコールクラブ アドバイザーの秋山華子、上田晃司、熊切大輔、佐藤倫子、三好和義、小林紀晴の計8名により、3日間にわたって厳正なる審査を行いました。
コンテストの審査を務めさせていただく際、私は頭の片隅に、常に「よい写真とは?」という問いを浮かべながら作品を拝見しています。その答えは決してひとつではなく、人によって大きく違います。それぞれの思いや価値観が拠り所となるからです。そのことは理解しているつもりですが、それでも「よい写真」は存在すると信じています。
別の言葉に言い換えれば「シンクロ」が相応しいかもしれません。まったく知らない誰かに想いを伝えることは容易ではありません。それでも、確かにシンクロする瞬間はあります。少なくとも今回選ばれた作品が、審査員の心とシンクロしたことは間違いありません。写真による無言のコミュケーションの結果といえるでしょう。これはときに奇跡でもあり、その存在を私は貴く感じます。
今回のグランプリに輝いたのは、眞野瑞己さんの「寒暁の舞」です。ルリビタキという鳥を、超望遠レンズを使って、羽を広げた瞬間を見事にとらえており、小さな鳥の中に強い意志を感じさせ、鑑賞者への問いかけがあります。リサーチ力に加え、高度な撮影技術が伴わなければ決して撮影できません。それらの点が審査員全員から高く評価されました。
自由部門(単写真)の金賞には、古川夏子さんの「火華(ひばな)」が選ばれました。花火を撮影した写真を見る機会は多いものですが、この作品は橋の上で花火を鑑賞する人たちの息づかいまで聞こえてくるかのようです。自由部門(組写真)の金賞に選ばれたのは、藤吉修忠さんの「実存の証明」。若者たちの姿を大胆に切り取ったモノクロ作品ですが、若さの中に潜む、世代を超えた普遍性を何よりも感じさせてくれます。
ネイチャー(自然・風景)部門(単写真)の金賞は、荒田拓さんの「魅惑の大地」という作品。蔵王の日没の頃を撮影しています。絞り込んだパンフォーカスによって奥行きが出ていて、グラデーションの美しさも見事です。ネイチャー(自然・風景)部門(組写真)の金賞は、峯田翔平さんの「陽変幻」です。桜の老木、ブナ、朝霧、ダイヤモンドダストといった異なる季節と要素を構成した難易度の高い組み方ですが、見事に作品として成立しています。
U-18部門(単写真)の金賞は幸地今梨さんの「突き進む」、U-18部門(組写真)の金賞には小上馬杏南さんの「覚悟」が選ばれました。幸地さんの作品は手漕ぎの小舟が進む姿が力強く、小上馬さんの作品は、自身がうちに秘める思いを写真で宣言しています。
Web部門(単写真)の金賞には、深澤明彦さんの「厳冬期の光と風」が選ばれました。臨場感あふれる作品です。過酷な状況での撮影であったことが見る側にも十分に伝わってきます。インパクトにつながりました。みなさま、誠におめでとうございます。
秋山 華子、上田 晃司、熊切 大輔、小林 紀晴、佐藤 倫子、三好 和義(写真家・ニッコールクラブ アドバイザー)
中藤 毅彦(写真家)、藤井 利佳 (ミツバチワークス株式会社取締役・GENIC編集長)