第73回ニッコールフォトコンテスト

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自由部門(単写真)

金賞
銀賞
銅賞
入選
応募点数 2,763点
講評 秋山 華子

講評 写真家・ニッコールクラブ アドバイザー 秋山 華子

撮影者の生き方と研ぎ澄まされた感性が表れる作品たち

 本年度もニッコールフォトコンテストの審査に関わらせていただき、身の引き締まる思いと同時に、大変光栄に感じています。審査を進める中で改めて思うのは、このコンテストが応募された方々の熱意と探究心の深さを柱に成り立っているということです。作品と向き合うたびに、写真という表現の力強さと、そこに込められた思いの豊かさを実感します。
 自由部門(単写真)では、多様な作品が集まりました。身近な日常を丁寧に見つめた作品から、独自の発想で世界を再構築したものまで、その幅広さは圧巻であり、まさに「自由」の名にふさわしい部門となりました。その分、審査は一筋縄ではいかず、作品の背景や意図を汲み取りながら慎重に議論を重ねる時間となりました。
 金賞に選ばれた古川夏子さんの「火華(ひばな)」は、時間と光の軌跡を緻密な計算のもとに構築した圧倒的な一枚です。花火という一瞬の現象を、光の流れと空間のリズムとして再解釈し、時間の層を重ねることで壮大な世界を作り出しています。画面全体を包むエネルギーのうねりには、作者の意図と感性の鋭さが表れています。映し出された花火を見つめる小さな人々は静謐な空気をまとい、単なる"美しさ"を超えて、人間模様と光が織りなす美の存在が清々しく描かれています。偶然を待つのではなく、自らのイメージを具体化する力──そこに表現の一つの到達点を見ます。
 銀賞の八木ジンさんの作品「ねことあかちゃん、はじまりのあさ」は、穏やかな日常の中に宿る生命の輝きを丁寧にとらえた作品です。朝の光が部屋いっぱいに差し込み、二人を包み込む様子は、まるで命の温度を可視化しているようにも感じられます。互いに無防備な姿で寄り添う様子には、純粋な信頼と静かな幸福が漂っています。構図も安定しており、背景の余白や光の流れにまで意識が行き届いていて、八木さんがその場の温度や空気を感じながらシャッターを切ったことが伝わってくる、優しさに満ちた作品です。
 銅賞の3作品は、いずれも優れた観察力と構成力で、日常や自然の中に潜む秩序と美を引き出しています。工藤嘉晃さんは、整然と並ぶカモメの群れをリズミカルに配置し、都市の中の偶然の造形を軽やかに写しとりました。松下芳史さんは、舞台に立つ直前の子どもたちの静かな緊張を、光と影の対話によって繊細に表現しています。澤田牧見さんは、雪原に刻まれたスキーの軌跡をまるで音楽の譜面のようにとらえ、自然の中に宿るリズムを詩的に描きました。三者三様の視点ながら、いずれにも「見慣れた光景の中から作者ならではの視点を極める姿勢」が通底しており、写真表現の原点を感じさせます。
 自由部門の魅力は、写真の可能性が無限に広がることにあります。今回の入賞作品はいずれも、作者自身の感情や思考を媒介に、世界を見つめ直す視点に満ちていました。写真は、被写体の外にある光を写すと同時に、内なる感情をも照らし出します。その意味で、応募者の一枚一枚は、時代を映す小さな鏡であり、同時に「自分自身を見つめる」創造の行為でもあります。
 変化の激しい時代にあっても、写真は、撮る人と世界、そして見る人をつなぐ身近で力強い表現です。視ること、感じること、残すこと──そのすべてのプロセスの中に、撮影者の生き方がにじみ出ます。このコンテストの場で研ぎ澄まされた感性と出会えたことは、なによりの喜びとなりました。