第73回ニッコールフォトコンテスト
| 金賞 | |
|---|---|
| 銀賞 | |
| 銅賞 | |
| 入選 |
| 応募点数 | 2,908点 |
|---|---|
| 講評 | 中藤毅彦 |
全体を俯瞰する眼で構成された組写真の面白さ
組写真はテーマとしてまとめる構成力が必要とされる。1枚1枚の力強さはもちろんのこと、総合的な力量が必要とされる部門である。各々の写真がひとつの歯車となって有機的に噛み合った時、初めて組写真としての輝きが生まれる。
いかに組み合わせるかは作者の自由なだけに、センスと経験が問われるところだ。核となる強い1枚を軸に展開するのも良いし、全てのカットが等価に響き合いながら大きなテーマを表現するのも良い。いずれにせよ、全体を俯瞰する冷徹な眼が大切となる。単写真としての思い入れに流されて全体のバランスを崩し、足をすくわれないように注意したい。
今回、見事金賞を射止めた藤吉修忠さんの「実存の証明」は、人物の全体像を入れずに、全編を身体のクローズアップのみで組んだ力強さが、観る者に強烈なインパクトを残している。大胆に切り取られた身体に、ピアスや服、ネイルアート等を絶妙に写し込むことで、現代の若者の尖った風俗をとらえている。中でも、凝ったネイルアートの施された指の間からのぞく目線のカットは、この年代特有の不安と自意識が入り交じった複雑な心情の見事な表現となっている。加えて、85歳という年齢の作者が、路上で若者とコミュニケーションを取りながら撮影した若々しいバイタリティも素晴らしい。
銀賞の宮本節夫さんの「お身拭い」は、正当的なドキュメンタリーの手法に乗っ取った作品だ。確かな構想と撮影技術による組写真としての説得力は、他を圧するものがあった。東大寺大仏のお身拭いという一つの行事の中で、変幻自在にアングルを変え、的確に必要な場面を切り取るフットワークも高く評価したい。特に、大仏の上半身を写したカットは、大仏と人間たちのどこかユーモラスなスケール感の対比が目を引き、作品全体の軸となっている。
銅賞の古熊美帆さんの「夢を打つ」は、何と言っても被写体の少年が魅力的。顔をアップで写したカットの本能的で存在感ある眼力は、プロボクサー顔負けの迫力だ。背景のアジア的な佇まいのボクシングジムのディテールも興味深く、写り込んだ文字などを読み解いていくのも面白い。今後、この子が将来ボクサーとして成長して行く様も、ぜひ撮り続けていってほしい。
続いて平山弘さんの「晴れの日」は、地方の素朴でローカルな成人式をテーマにしたストーリーの作品。神社の入り口で孫の成人を見守るお祖母様や、並んだ履物などの叙情的な光景が入ることで、観る者の感情に余韻を残す。新成人の表情をストレートに写すのではなく、背中越しに列席した親戚達の表情を撮るなど、捻りの効いた視点も新鮮だった。
宇仁管節子さんの「ドラマチックな金曜日」は、美意識に満ちた画づくりの巧みさが際立っている。どのカットもテクニカルな工夫が凝らされ、単写真としても上位をねらえるほどの完成度の高さが光っていた。
自由部門(組写真)は、言わば何でもありの異種格闘技戦といえる部門であるが、上位入賞作品は、いずれも劣らぬ個性を発揮しながら、しっかりと主題が浮かび上がる作品が残った。組写真ならではの醍醐味にあふれた、手応えのある審査となった。