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キラキラキラ(沖縄県竹富町)
エメラルドグリーンの水面を、光を連れた波が走り、砂を巻き上げ白い泡となって消える。寄せては返すの単純な繰り返しだが、撮るたびに波模様は変わり、「これ、同じような写真がいっぱい過ぎて選ぶのに困るパターンだ」と自覚しながらもシャッターボタンを押す指が止まらない。
真昼間の真夏の海、波打ち際で撮影するのは、いつ以来だろう。いや、もしかしたら初めてかも。海水で足が濡れるのは嫌だし、暑いのも嫌。お肌にキツイ直射日光も嫌いだし、海風のべた付く感じも嫌で、ずっと食わず嫌いだったが、こんなに夢中になるなんて予想外だ。撮っても撮ってもキリがないけど、時間はたっぷりある。
そう、私、今夜は、この波照間島で一泊するんだから。
波によろめき、砂に足を取られて「戻るの、大変だな」と案じつつ、人の少ないビーチの奥を目指してどんどん歩く。
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今回の旅の目的は、「いかにも夏っぽい」海と空と雲を撮ること。
日本全国四季折々の風景を追っていながらも、撮りそびれていたジャンルだ。その自覚はあったので、夏になると本州や北海道で海を撮るようにしていたけど、沖縄の海は特別で、替えが効かないらしい。中でも波照間島の海の色はひときわだという。
「行きたいな」
が、波照間島と石垣島を行き来する船は、波の高さや風向きで欠航率五割を超えるという噂もあり、帰りの石垣発の飛行機に乗れなくなるリスクが高い。昨日も出港した船がアナウンスなく引き返してしまい、船酔いで目を閉じて、起きたら石垣島に戻っていたという、笑えない話を耳にした。
船は一日三便。朝六時に発表される運航予定を確認した私は、「今日しかない!」と心を決めた。予約なしで石垣発の始発便に乗るには、早朝から並ばないとあぶれるので、日の出の撮影もそこそこに港へ向かう。
宿の確保も難しい。どこか空いているだろうと甘くみていたが、十軒以上電話をかけても全て満室。きっとダメだろうなと思いながらの電話は気力を消耗するし、断られ続けて心が折れた私は、日帰り六時間ほどで撮りまくる覚悟で乗船した。
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少々船酔い気味のままフラフラと上陸した波照間港は、宿やレンタサイクルの送迎車で賑わい、「よく来たね!」「よろしくお願いします!」と活気に溢れていた。そんな中、ただじっと止まったままの車を見付ける。車体には「民宿」と書いてあるけど、誰を乗せるわけでもなく、客引きをするわけでもなく、無表情で運転席に座ったままのおじさんは、港から人がはけると、じゃあ戻るか、とエンジンをかけた。
もしかして!? 久々に元バックパッカーのアンテナが反応した私は走り寄り、ダメ元で空室を尋ねると、なんと一部屋、空いているという。これを神の思し召しと言わず、何と言おう! こうしてめでたく、波照間島に一泊できることになった。
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部屋は……小さいムカデと格闘したりもしたが、泊まれるだけで恩の字だ。昼の撮影後、宿でカメラのバッテリーを充電してから、夕日を撮りに再び海へ向かう。
日が沈むと、海に月光が揺らめいた。夜の海は神秘的だ。そのまま撮っていると、今度は陸側から天の川が昇ってきた。雲の多い夜だが、沖縄のすごいところは雲の隙間から天の川が顔を出す。これを撮らずに宿へ帰って寝るなんて、もったいない!
カメラを連続撮影にして、砂浜に寝っ転がる。少し離れたところに男女二人組がいて、昭和のアイドル歌謡曲を流していた。灼熱の太陽の下で頑張った疲れが出たんだろう。懐かしい音楽と心地よい夜風に、いつのまにかうたた寝してしまい、気が付くと人の気配は消えていた。
最終便が出たら、悪いことをしに誰も島にはこっそり入れない……という安心感のせいか不思議と怖さはなく、極上の時間を味わう。このひと時だけでも波照間島に一泊した甲斐があったというものだ。
「これ、宿がなくても砂浜で良かったかも?」
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未明、せっかく確保した宿に戻るべく歩いていると、どこからか話し声がする。砂浜の入口まで来ると、高校生ぐらいの男女数人が座り込んでいた。野宿組かぁ。
案外、臆病な私は、野宿ありきの選択はやっぱり出来ないし、したことがないけど、 楽しげに気だるげに話し込む若者たちの姿に、青春映画を見ているような気分となり、うらやましさを覚えるのだった。
早朝のニシ浜はまだ海浜に光が届かず、夕方は逆光で波照間ブルーが生かせない。晴天の10時頃から14時頃までの光線が良く、日帰りでも成果あり。潮の干満で砂浜の印象が変わるので留意。ニシ浜だけなら港から徒歩圏内。他も回るならレンタサイクル必須。
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写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2025年7-8月号