はじめまして。東京近郊で活動している、フォトアーティストのももこ(@moepejic)です。
私が表現したいのは「自然を心から愛し、自然に溶けこみ日常を過ごす美しい少女」。小さな頃から憧れている“絵画や文学の世界”…モネ、ルノワール、ジョン・エヴァレット・ミレイの絵画や、『プライドと偏見』『赤毛のアン』といった文学作品、それを映像化した映画などからインスピレーションを受け、作品づくりをしています。




この記事では、「海外のクラシック映画のワンシーン」を切り取ったようなポートレートの撮り方や、世界観をより深く豊かに表現するためのアイデアを、みなさんに詳しくご紹介できたらと思います。
世界観をつくるために大切な準備
クラシカルな世界観は、「舞台」「衣装」「登場人物」でつくっていきます。
なお、映画などからインスピレーションを受けますが、「今回は○○の作品のこのシーンを撮ろう」とテーマをあらかじめ決めているわけではなく、天候や気候、モデルさんに似合うアイデアを頭の中のストックから引き出して撮影をしています。
舞台として自然豊かな場所を選ぶ


左:撮影場所の全景、右:この場所で撮影した写真
撮影場所には、都内であれば代々木公園のように自然が豊かな公園などを選びます。極力、現代的なものや人工物が写らないこと、ヘアメイクのための場所を確保できることも大切なポイントです。
世界観に合った登場人物に仕上げるスタイリング
「19世紀頃のヨーロッパ」のイメージを土台にしながら、モデルさんと衣装を決めていきます。
時代を再現するためのモデルさん選びとヘアメイク
モデルさんは、「19世紀頃のヨーロッパ」という世界観に合わせて、その雰囲気のある方や外国の方にお願いをすることが多いです。Instagramでモデルさんを探して、撮りたい写真や作りたい服のイメージが浮かんできた方に声をかけています。
また、全体を巻き上げてふわっとしたウェーブヘアにすることが多いので、できるだけ髪の長いモデルさんにお願いしています。


ヘアスタイルは、現代的で複雑な技術のセットはせず、少女が自分でできそうな髪型を意識しています。モデルさんの素肌感を大切にしたいので、メイクはできるだけナチュラルに。ただし、チークとリップはレタッチによって彩度が下がってしまうことが多いので、濃いめにしています。
Instagramで外国人またはハーフのモデルさんを見つける方法
- すでに知っているモデルさんがいる場合は、その方がフォロー中のアカウント一覧を表示して、その中からモデルさんがいないか探す。
- 美容師さんのアカウントは素敵なサロンモデルさんの写真の宝庫。気になるモデルさんが写っている写真を見つけたら、その写真に「いいね」をしているアカウント一覧を表示して、ご本人のアカウントがないか探す。
はじめはなかなか見つけられませんでしたが、根気強く探して依頼していくうちに、どんどん輪が広がっていきました。
衣装に欠かせない布をたっぷり使ったスカート
衣装は、登場人物の世界観をつくる上でとても重要で、いつも悩んでいちばん時間がかかる部分です。
自作しているのですが、クラシカルなヨーロッパの雰囲気に少しでも近づけるように、18~19世紀のヨーロッパのドレスを参考にしてデザインを考えています。
もちろん手作りでなくても、アンティークの洋服屋さんを探して購入したり、レンタルという方法もあります。ちなみに私は、下北沢にある「Mél(メル)」というフランスアンティークの洋服を扱うお店がお気に入りです。


衣装で最も大切にしているのは、布をたっぷり使用すること。スカートには4m前後の布を使い、丈は足首くらいの長さにするのがポイントです。事前にフィッティングできないため、1回の撮影で3パターンは用意し、当日実際に試しながらコーディネートを決めるようにしています。
背景に映える色の考え方
Z 7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
衣装はホワイトや薄ピンクなどの淡い色味や、ブラック、ブラウンなどが自然にマッチしてクラシカルな雰囲気も出やすいです。特に白は、自然の緑に浮き上がるように際立ち、存在感のある写真に仕上げることができます。レタッチで色味の調整をしますが、その影響を受けにくいのもポイントです。なお、マゼンタ系や赤系の色は、強い印象があるのであまり取り入れません。
ストーリーをつくり出す小道具
小道具には花や帽子、リボン、洋書などを用意し、1回の撮影でもさまざまなパターンを楽しめるようにしています。
帽子は、フランスアンティークのものやクラウンが浅めの麦わら帽子を選んでいます。できるだけ装飾がないものやシンプルなものが◎。リボンや生花、ドライフラワーなどで飾ると世界観にマッチします。
花は小花を中心に買うことで、少女が野原で摘んだような、より自然に溶けこんで自由に遊んでいる雰囲気を表現できます。
※撮影場所の花や植物は摘まないようにしましょう。
ドラマチックに撮影するための機材
- カメラ:画質や色調の質、レタッチの完成度を高めるには、フルサイズのカメラが断然オススメ。
- レンズ:豊かなボケ表現が大切な要素のため、レンズは開放F値の小さいものを。F1.8以下なら十分です。
今回は Z 7IIとNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを使用し、いつも以上の高画素・小さな開放F値でどのような写真が撮れるかも楽しみの一つでした。


左:A(絞り優先オート)モードで撮影、右:S(シャッター優先オート)モードで撮影
撮影は基本的にAモードにしています。モデルさんに自由に動いてもらいながらシャッターを切ると、映画のワンシーンのような動きのある自然な写真になるため、AF性能が高いカメラとレンズがオススメです。大きな動きをしてもらうときはSモードに切り替え、ブレないシャッタースピードに調整します。
クラシカルな世界を描くための撮影ポイント
ここからは実際の撮影時のポイントです。光、アングル、構図によって世界観・ストーリー性を表現します。
光と影で被写体の美しさを引き立てる
午前早くや夕方の斜めからの光を生かして、光と陰影の表情でモデルさんの美しさが際立つように意識しています。


右の写真のように、小道具として用意した植物をかざすことで、影の表情をつくるのもテクニックの一つです。顔の上に複雑な影が入ることでアート性が増すだけでなく、顔の凹凸で思いもよらぬ形の影ができるのでオリジナリティを感じる写真になります。
光が低い時間帯は、積極的に逆光で撮ることで、やわらかい光に包まれるようなシーンに。レンズに直接光が入るようにすると、フレアやゴーストを生かすこともできます。
撮影場所の人工物はアングルでカバー
撮影は自然豊かな場所を選びますが、そのまわりにはどうしても建物など人工物があります。「自然の中の少女」というイメージで切り取るためには、この人工物が写らないようにアングルを工夫します。


左の写真は、公園の看板や人が写ってしまう状況だったので、自分が寝転んで真下くらいの位置からローアングル撮影。モデルさんには遠くから歩いてきてもらい、かなり近くに来たときにシャッターを切りました。
右の写真は、大きなマンションが写りこむ状況だったので、ハイアングルで背景が草だけになるよう切り取っています。
引きと寄りの構成で物語を演出
同じ場面でも引き・寄りで写真の印象が大きく変わるため、物語をどんなふうに演出したいか考えながら、構図を決めています。
- 引き:自然風景の中に佇む少女を表し、住んでいる場所や生活のイメージができるように。
- 寄り:表情や花のアップで心情を表現したり、どこに美しさや感動のポイントがあるかを伝えます。


上の写真のテーマは「自然の中で読書を楽しむ女性」。引きと寄りの2枚によって、より鮮明にシーンが見えてくるかと思います。このとき、ポートレートの小道具として本を持っている感が出ないように、カメラ目線ではなく「本を読んでいるように見える」ことを意識。栞の代わりに花を使っている設定など、細部まで世界観にこだわります。
撮る側も魅了される寄り写真
Z 7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
私自身、モデルさんの吸いこまれそうな美しい瞳に魅了されながら撮影をしています。
“引きこまれる写真”というのは、何に注目すればいいのかわかりやすい写真のことだと思います。画面構成はシンプルなほど、その力が強いです。
モデルさんと具体的なイメージを撮影前に共有
撮影の直前にポーズや目線、表情などのイメージを具体的に伝えます。事前にモデルさんのSNSなどをチェックして、特に好きな表情や写真などをピックアップしておくのがオススメです。
上の写真は、私もモデルさんも映画『プライドと偏見』が好きだったので、「主人公のような、強くて美しい心を持つ女性をイメージしてほしい」と具体例を挙げ、「夕日の光や風を感じてほしい」ということも伝えました。やわらかく知的な雰囲気を出すために、あごに手を添えるポーズを思いつき、自分で実際にやってみてモデルさんに真似してもらいました。
そして、いい表情のときや、いい写真が撮れているときには、そのことをしっかり言葉で伝え、モデルさんに安心感や幸せな気持ちを感じてもらうことも大切なポイントです。
物語をより豊かにする表現のアイデア
「クラシック映画のようなワンシーン」といっても、明るいシーンや暗いシーンなどさまざま。ここからは、世界観をより深く豊かに表現するためのアイデアを紹介します。
暗さを生かして印象的なシーンに
影の中のスポットライトでモデルさんを際立たせる
木々が茂っている場所などでは、光が部分的にさえぎられてスポットライトのようになっているところがあります。画面の構成要素で、一部にだけ光が当たり、その他が影になるような状況を見つけたときには逃さないように。やわらかく暖かい光で照らすことができるので、夕方などの斜光がベストです。


モデルさんの体、特に顔まわりにだけ光が当たるよう細かく調整しながら立ち位置を決めることで、背景が暗い中で被写体が浮かび上がり、絵画のように印象的な写真にすることができます。
周辺がどれだけ暗くなっても気にせず、光が当たっている部分の色がきれいに出て、適正露出になるように。こういうシーンでも背景をぼかしたいため、開放F値にして露出補正で暗くします。それでもうまくいかない場合はSモードにして、顔が白とびせずに見えるギリギリの速さで撮るのがコツです。レタッチのときにも、暗い部分が明るくならないように気をつけます。
暗い時間帯は思い切りISO感度を上げ、ノイズの粒子感を楽しむ
普通なら自然光での撮影を諦めてしまうような薄暗い状況でも、ISO感度のノイズを避けるのではなく、受け入れて撮影を続けることがあります。
上の写真は、曇天の日没後だったためかなり暗く、ISO25600で撮影しました。ノイズが出ていますが、そのザラザラ感も他の写真と差別化された作風になると思います。
被写体をあえてはっきりとは写さない
ぼかして絵画的に描写する
ピント位置をずらして顔をぼかすことで、絵画のように写すことができます。
モデルさんとレンズの距離が離れすぎると、ボケすぎてよくわからない写真になってしまうため、バストアップくらいの肖像画のような構図に。帽子のつばにピントを合わせるとちょうどモデルさん自身がきれいにぼやけて見えます。
上の写真は、ルノワールの『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』のようなイメージで撮りました。できるだけぼかしたかったので、開放F値で撮影しています。
ブレを生かして少女の心の動きを表現


モデルさんが動いている瞬間をぶらして撮るのも、心情表現の一つです。体や顔が大きくゆがむほどにはぶらさず、輪郭線がふわっとする程度に。シャッタースピードは1/30~1/50秒ほどを目安にしています。
素に戻った瞬間の自然体を写す
OKサインを出してカメラを下げた直後は、モデルさんの自然体を写せるシャッターチャンスです。
上の写真は、片づけをしているときに素早く撮影した1枚。モデルさんがカメラを意識する前にシャッターを切ることで、ピントが合わなかったとしても印象的な写真になります。モデルさんが衣装や靴を脱いでいるところ、髪の毛をほどいているところなど、自然な動作を撮影すると、映画のワンシーンを切り取ったような雰囲気になります。
フィルターを使った非現実的な表現
意図的に色味をやわらかくしたいときや、ふわっと曖昧な写りにしたいときなどはサランラップ、カラーフィルムなどをレンズの前にかぶせて撮影することがあります。



左から通常、サランラップ、黄色い透明フィルム
撮影するときは、左手で透明フィルムをかざしながらレンズの先を支えます。輪ゴムでレンズに固定する方法もありますが、あえてフィルムがレンズにきちんと当たらない状態にすることで、異なる表情の写真に仕上がっておもしろいです。もしブレてしまったとしても、透明フィルムとの相性はいいので、そのまま受け入れることができると思います。


左:通常の写真、右:ピンクの透明フィルム
撮影しているうちにフィルムがグシャグシャになりますが、そのおかげでふわっとした雰囲気やおもしろい反射光が入ったりするのもポイントです。
花+αでモデルさんの表現を引き出す
小道具は花をメインにしていますが、+αとしてスイーツなどがあるとモデルさんもリラックスできて、幸せな表情を引き出すことができます。今回のモデルさんは、食べることが好きだったこともあり、いい表情が出ました。


上の写真は、顔とタルトだけではなく食べている姿勢がわかるようなアングルと画角で撮りました。具体的なイメージとして、「マリー・アントワネットがタルトを食べているような、高貴な感じで」とモデルさんに伝えました。
室内で落ち着いたイメージを撮影
サイド光が入る部屋の壁に、生成りや黒の布を画鋲で張れば、簡易のスタジオに。家での落ち着く感じを表現でき、アンティークの椅子が1脚あるだけで世界観にマッチします。


暗い室内ではF値をできるだけ小さく、ISO感度は400程度を目安に。手ブレしないように、シャッタースピードを1/50秒は確保しています。背景が黒い場合は、背景がしっかり黒く写ることを意識し、白い服の場合は白とびにも気をつけます。
クラシカルな雰囲気を際立たせる編集
編集ではクラシカルな世界観を表現するために、フィルムライクで自然な色味や、心地よい色味を目指しています。
※編集はLightroom Classicを使用しています。
編集前
【基本補正】
Lightroom編集画面
以下を調整して、まずコントラストを抑えます。
- ハイライト&白レベル:マイナスに。
- シャドウ&黒レベル:プラス(写真によりシャドウだけの場合もあります)。
また、「自然な彩度」を少し下げることで、全体の鮮やかさを抑えています。
【トーンカーブ】
Lightroom編集画面
「トーンカーブ」で、レタッチの土台をつくります。フィルムライクに仕上げるには、いちばん暗い部分を少し上げ、いちばん明るいところを少し下げ、ほんのりS字を描くように。RGBに関しても、バランスのとれたコントラストになるよう、ほんのりS字を描くように少しだけ調整するのがコツです。
【HSL】
写真ごとに「HSL」の彩度を落としながら調節していきます。
- 彩度:肌の色をできるだけ白く仕上げるために、不自然にならないギリギリまでオレンジを下げます。イエローを落として青っぽい緑に見えるように編集することで、映画や絵画のように静かで幻想的に仕上げることができます。下げすぎるとファンタジーやアニメのようになることもあるので注意が必要です。オレンジとイエローを調整した結果、グリーンを下げないと不自然になってしまう場合はグリーンも調整します。
- 輝度:肌を白くするためオレンジはかなり明るく調整し、レッドは唇やチークの色味を出すために下げます。
【カラーグレーディング】
カラーグレーディングは、写真の光や色味によって試行錯誤と微調整を繰り返す部分です。
Lightroom編集画面
私の写真の色味は、ハイライトとシャドウは青色、中間調は黄色が基本です。ハイライトには透明感やすっきりした空気感、肌の白さなどを出すために青を入れますが、シャドウも青系のため全体的に青く冷たい雰囲気になってしまいます。中間調に黄色を入れることで、写真の青みを中和してナチュラルな雰囲気に。この黄色が、肌の色やドレスの色をきれいに出してくれるポイントです。
【効果】
最後に「効果」で、フィルムライクの仕上げです。
- 周辺光量:少し下げます。
- 粒子:思い切りフィルムライクにしたいときは50~70くらいまでプラス(サイズと粗さは30前後)。
左:編集前、右:編集後
以上の編集で、クラシカルな雰囲気を感じる写真に仕上がりました。
Photographer's Note
「主人公となるモデルさん」「時代設定に合った衣装(布をたっぷりと使用した)」「世界観に合った撮影場所(現代的なものを画角から取り除く)」のポイントを押さえれば、海外のクラシック映画のような写真を撮ることができます。
衣装については、手作りに挑戦するのもオススメですが、難しい場合はSNSでアンティークの洋服店を探して購入したり、レンタルという方法でももちろん大丈夫です。実は私も自作の衣装をレンタルしているので、興味のある方はDMでご連絡をいただければ!
今回の撮影を通して、私が表現したいのは「自然の中にいる少女の命の煌めき」だということを改めて感じることができました。今後は海外の大自然の中で、自分のスタイルを貫いた作品づくりをしてみたいと思います。
Nikon機材を使ってみて
いつかNikonのカメラを使いたいと思っていたので、憧れのカメラとレンズで撮影ができて幸せでした。
はじめて触った Z 7IIは、直感的に操作の仕方がわかり、タッチパネル式のモニターも便利すぎて感動しました。フォーカス性能も素晴らしく、今まで諦めていた植物の隙間からモデルさんの姿を狙うショットも、一瞬で瞳にピントが合って素敵な写真になりました。
Z 7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
深みがあって、こっくりと濃厚な写りなのに色味がこれ以上なく自然で、まさに私の目指す世界観にぴったりです。また、憧れのレンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」を通して見た世界は想像以上に美しく、ただただ圧倒されました。すべてが繊細で優しく輝いて見える今回の撮影を通し、すっかり大ファンになりました。
Model:マドレーヌ(@wagamamadochan)、新夏(@seasandandsorrow)
Supported by L&MARK

ももこ
東京近郊を中心に活動するフォトアーティスト。ジェイン・オースティンやモンゴメリなどの海外文学、モネ、ルノワールといった印象派の絵画からインスピレーションを受けた作品を、SNSを中心に発表。衣装作りやヘアメイクも手がけている。