オールドレンズやフィルムカメラが写し出す世界は、日常のはずなのにどこか懐かしくて温かい…。ファインダーをのぞきこんで、ノスタルジックな空間にカメラを向ければ、まるでタイムスリップをするような新しい出会いが待っています。
はじめまして。フォトグラファーのnano(@nanono1282)です。フィルムカメラをメインに、感情を丁寧に写したいと思って日々シャッターを切っています。
今回は撮影で知り合った稀ちゃん(@marematsuura)と一緒に、西荻窪駅から少し離れた“松庵”という場所にある「松庵文庫」さんへ。本屋さんのような名前ですが、古民家を改装したブックカフェ&ギャラリーです。改札を出てすぐのところには商店街やのんべえ横丁があり、下町感があふれている西荻窪。駅前を抜けると人混みは徐々に薄れていき、住宅街へと景色は変わっていきます。
途中、緑豊かな場所を発見。木漏れ日が素敵な場所は、足元と影を撮りたくなります。やわらかい雰囲気を出したくて、愛用のFE2にソフトフィルターをつけて撮っていると、稀ちゃんも撮ってみたくなったようで、予備で持ってきたフィルムカメラを渡しました。
夢中でシャッターを切る横顔をファイダー越しで眺めてきゅんとする。その姿を、緑を前ボケにして切り取ってみました。
二人で撮り合っているのがなんだかおかしくて、けらけら笑いながら歩きます。そんな道のりを楽しみながら住宅街を歩き進めると、大きなモチの木と古民家が突然現れました。
大きな木には「松庵文庫」のかわいい看板。幹全体が緑でおおわれた、昔話に出てきそうな佇まいです。ここが、築80年の古民家をリノベーションしたというブックカフェ。建物の中に入った瞬間、空気が静かに変わった気がしました。
玄関で靴をぬぎ、スリッパにはき替える…。誰かのおうちにお邪魔するようで、なんだか胸が高鳴ります。玄関の左手にはショップスペース。ガラスや陶器、竹細工など、質のいい暮らし道具が並んでいます。
この場所にどこか懐かしさを覚えるのは、振り子時計の時を刻む音のせいかも。静かな住宅街の中で、カチ…カチ…カチ…と普段は気にも留めない音に耳を傾けながら、温かみのある手しごと雑貨を楽しむ素敵な時間。光を浴びたグラスたちもきらきらしてる。大切な人への贈り物にもよさそうだなぁ。
ガラス越しで見えていたカフェスペースに入ると、まるで別荘地にいるような静かな時間が流れていました。
花瓶越しに撮ると、見え方が違う二つの世界が1枚に収まっておもしろい。
もともと音楽家のご夫婦がお住まいだったという趣のある店内には、大切な時を重ねてきた家具たちが置かれ、大きな窓からは光に照らされ輝く中庭、そして品よく佇む樹齢100年のツツジが眺められます。お店の方によると、5月頃には花が咲き、ピンク色に染まるらしいです。開花時期ではありませんでしたが、新緑のすがすがしさを感じました。
私たちは、後ろの窓から金柑の木が見える、奥のソファー席に座りました。ここはもともとお風呂場だったそうです。その名残の白いタイルがかわいい。店内で最も光が差し込んでいたこの場所では、物や人の輪郭がいつもよりきらきらして見えました。光と反射、緑と黄色のコントラストがきれいです。
ソファーに腰かけ、店内を見渡すと、“文庫”という名前の通り、たくさんの本たちが置いてあります。お隣、荻窪の新刊書店「Title」さんが「長くお気に入りとなる1冊を」とセレクトされたものなんだそう。
ここでは、一度に1冊がルールらしいので迷ってしまう。稀ちゃんは、普段あまり読まないと言っていた文庫の小説を手にしていました。文庫本の淡いクリーム色のページを通して、差し込む光が輝いてる。本に光が当たっている光景が、映画のワンシーンみたい。
本の世界に没頭しているうちに、着々とお料理の準備は進んでいるようで、おいしい香りが漂ってきました。
少し早めのランチに私たちが頼んだのは、お米農家やまざきさんのお米を使った「お米御膳」です。添えられたお品書きを読んでイメージをふくらませる様子がなんかいい。窓からの光でテーブルがスポットライトみたい。
ヒノキのお重を持ち上げると、下の段に色とりどりのお料理が現れます。このときは、旬の魚の竜田揚げと野菜の春巻き、具だくさんの卵焼きやお吸い物など、季節を味わう7品目でした。
写真に夢中になっていましたが、私も一緒にいただきます。1品1品丁寧につくられ、噛むほどに素材本来の旨みが広がる、やさしい味わいのヘルシーな御膳。少しずつの量だから、いろんなお料理が楽しめて大満足です。
そして、今日はちょっと贅沢してスイーツも。選んだのは金柑のチョコレートテリーヌと紅茶です。「ちょうど後ろの窓から見える、中庭の金柑を使っているんですよ」と、お店の方が教えてくれました。おいしそう…。
強い光が差し込んでいたので、影の面積を増やして光と影がつくる空気感を写しました。稀ちゃんが紅茶を注ぐとアールグレイの落ち着くいい香りが漂います。チョコレートテリーヌはなめらかな口どけで、金柑の繊細なさわやかさが絶妙なバランス。暖かい光の中でのティータイムは至福の時間でした。
慌ただしい日常から解放されて、ゆったりとした贅沢な時間を堪能できる場所。また一つ、自分の居場所が見つかった気がします。
— ANOTHER SIDE STORY —


中庭から離れた席も大好きです。後ろからやわらかい光が入るので、また違う世界が広がります。静かな時間に静かな写真を撮りたいときは、こちらの席に座ってみてください。
— photo&text by nano
松庵文庫
東京都杉並区松庵3-12-22
TEL:03-5941-3662
営業時間:水〜金曜日11:30〜21:00
土・日曜日11:30〜18:00
定休日:月・火曜日
http://shouanbunko.com/
※お店での撮影はお店の方に許可を得てから、お店や他のお客様に迷惑にならないようご注意ください。また、撮影のみのご利用はご遠慮ください。
※こちらに掲載している情報は2019年6月13日現在のものです。
Model:松浦稀(@marematsuura)
Supported by L&MARK

FE2

Nikkor S Auto 5cm F2

Nikkor-N Auto 24mm F2.8
※フォトグラファーの作品性を尊重して機材を選択・撮影しています。
※AI改造済みのNIKKOR-S Auto 5cm F2およびNIKKOR-N・C Auto 24mm F2.8でなければFE2に装着できませんので、ご注意ください。

Fujikawa hinano
Instagramで作品を投稿。グループ展やメディア執筆など、幅広く活動中。「日常と非日常の中にある曖昧さ、そして感情を丁寧に表現したいと思っています」