記念すべき25回目の開催となった総合写真祭「フォトシティさがみはら2025」。今年度のプロの部受賞者4人の作品を集めた写真展を、新宿駅西口の新宿エルタワー28階・ニコンプラザ東京THE GALLERYで開催します。
「プロの写真家の登竜門」との高い評価をいただくプロの部受賞作品を是非ご覧いただき、写真の持つ表現力や記録性などのすばらしさを感じとっていただきたいと思います。
(主催:相模原市総合写真祭フォトシティさがみはら実行委員会)
◆受賞作品について
2025年(令和7年)に開催した写真祭プロの部には、広義の記録性の分野で活躍された中堅写真家の中から「さがみはら江成常夫賞」として1名、新人写真家の中から「さがみはら写真新人奨励賞」として2名が選出されました。また、アジア地域で活躍している写真家を対象にした「さがみはら写真アジア賞」として1名が選出されました。
<受賞作品のご紹介>
○「さがみはら江成常夫賞」 ※旧「さがみはら写真賞」
亀山 仁(相模原市)
『Burma/Myanmar戦禍の記憶 2019-2024』(写真集) ※作品4点の内、左から1番目
○「さがみはら写真アジア賞」
マイカ・エラン(ベトナム)
『The Pink Choice』(写真集) ※作品4点の内、左から2番目
○「さがみはら写真新人奨励賞」
河田 真智子(東京都)
『医療への信頼』(写文集・写真展) ※作品4点の内、左から3番目
○「さがみはら写真新人奨励賞」
中西 敏貴(北海道)
『Land of Fusion 地と記憶』(写真集・写真展) ※作品4点の内、左から4番目
◆審査員コメント
フォトシティさがみはら25周年の本年は戦後80年となる特別な年である。その記念すべき年のさがみはら江成常夫賞は、長期に渡りミャンマー(旧ビルマ)を撮影し続けてきた亀山仁『Burma/Myanmar 戦禍の記憶2019-2024』に決まった。
1944年3月、ビルマ戦線において日本軍は''史上最悪の作戦''と言われるインパール作戦を決行した。英国領インドのインパール攻略を目指し、インド・ビルマの山岳国境地帯で繰り広げられたこの戦いで日本軍はインド国内だけで3万人の犠牲者をだした。雨季の豪雨が始まり、補給を断たれ、飢えた兵士が続出し、マラリア感染も広まり、撤退路には遺体や傷病者が溢れた。後に''白骨街道''と呼ばれる。
亀山は2018年から国内犠牲者が百万人を超えるミャンマーに残る戦争の痕跡を記録する撮影を始め、2019年、2020年には''白骨街道''の中心地であるチン州も取材した。しかし2020年にはコロナ感染が世界中に拡大、2021年にはミャンマー国軍によるクーデターが勃発し、現地での撮影は困難となる。このような状況下でも、亀山はインドのインパールやナガランドのコヒマといった戦地を訪ね、タイのチェンマイやメーソートといった縁の場所を巡り''戦禍の記憶''を掬いとった。
戦禍は過去のものだけではない。ミャンマーではクーデター後の現在も内戦が繰り返されている。戦争が現在進行形であることが亀山の写真からは、ひしひしと伝わってくる。残された遺物や残された人々の言葉へ、手を合わせるように撮られたその写真には、戦争の記憶を風化させないという強い思いが秘められている。
今年はベトナム戦争終結50周年の年でもある。さがみはら写真アジア賞に決まったホーチミン在住のマイカ・エラン「The Pink Choice」は、戦争から半世紀が過ぎたベトナムの平和な日常を生きる人々の姿を、かけがえのないものとして写しだしている。
マイカが10年以上にわたって取り組む「The Pink Choice」は、ベトナムの同性愛者たちの私生活を、繊細に共感を込めて撮影したドキュメンタリーである。ベトナムでは同性愛は合法だが、親密なカップルの写真には否定的な見方をされることが多い。マイカはこうした偏見への反発を出発点に撮影を開始した。彼女のまわりのゲイやレズビアンは普通に生活し、幸せを求め、自分たちのセクシャリティを隠そうとしなかった。マイカは彼ら彼女らが外部への武装を解き、寛ぎ、自分たちの自然な感情や感覚をあらわす時間帯や場所を選びとり、ベトナムの日常の流れの中で写しとめようとする。その瞬間を捉えた美しい写真は、多様なものの見方の大切さを伝え、現実から深く学ぶことの重要性を示している。
さがみはら写真新人奨励賞には河田真智子『医療への信頼』と、中西敏貴『Land of Fusion 地と記憶』が選ばれた。前者は最重度の障害を持ち生まれた娘が医学の支えの中で生きてきた36年の記録であり、自己の死を予感した母親としての葛藤や苦悩が、医療従事者への強い信頼と共に写し出されている。後者は5世紀から9世紀にかけて樺太、南千島、北海道のオホーツク海沿岸を舞台に狩猟漁撈を生業として活動したオホーツク人による北方文化の痕跡を、今を生きる風景として精緻に写しとった労作である。
2025年は昭和百年にもあたっている。各受賞者の写真は多様だが、私たちにこの百年の軌跡をあらためて捉え直す貴重な機会を与えてくれている。
(東京藝術大学名誉教授/美術史家/美術評論家 伊藤 俊治)
相模原市では、豊かな精神文化が求められる新しい世紀の幕開けにあたり、写真文化にスポットをあて、これを「新たなさがみはら文化」として全国・世界に発信することを目指して、総合写真祭「フォトシティさがみはら」を2001年にスタートさせました。
この写真祭は、未来への可能性を備えた「写真」をキーワードとし、時代と社会を考え、語り合うことで、新世紀における精神文化の育成に貢献することを基本理念とし、新たな時代を担うプロ写真家の顕彰と、写真に親しむアマチュアの作品発表の場を設けるとともに、市民参加型イベントなど、様々な事業を行っています。
本写真祭は今年25周年を迎え、最高賞である「さがみはら写真賞」を江成常夫氏の傑出した御活躍に敬意を表し「さがみはら江成常夫賞」と改称しました。これからも、写真展や関連イベントを通じ、写真に込められたメッセージを多くの方に届け、写真の持つ「力」を皆様に感じていただけるよう努めてまいります。
◆受賞歴について
相模原市総合写真祭フォトシティさがみはら実行委員会は、写真文化の振興・発展に貢献したとして、2006年に日本写真協会より「日本写真協会賞・文化振興賞」を、2011年に日本写真家協会より「日本写真家協会賞」を受賞しました。