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人間と自然の営み、ひそやかに——。
激しい日照りの下、わたしは古来の製鉄技術「たたら」の文化が残る島根の山あいを歩いていた。不意に心地よい風が、肌にまとわる汗をなでる。気づけばそこは集落の入り口。なるほど、ヒトの野性で地の利を生かした社会の発生を想像させる瞬間だった。
ここにいると、自然は人間が操るものではなく、コミュニケーションの対象という認識がしっくりくる。今でも、半夏生に刈った笹で巻く餅がふるまわれ、神在月のころ、杜に藁蛇が供えられゆっくり土へ還っていく。
豊かな風土の流転は、一方で人間に厳しさも教える。ツタが空き家を覆い、過疎地に残された果樹が獣を呼び寄せる。生物の多様性や復元力が育まれるのは、土(守る力)と、風(変える力)が摩擦する場所なのだから。
止まらない少子高齢化に無力さを覚えたら、この視点に立ち返りたい。老いと若きが擦れ合う中で、農村と都市、双方の論理をわかり合い、課題を乗り越えられるのは、まさにこの地からであろうと。
(紀 成道)
都会に住む人々の間で、「おくにはどちらですか?」という会話が、頻繁に成立していることを、不思議だと思ったことはありませんか。この会話は江戸の昔からあったそうですから、もともと人々は、特に若い人々は、地方から都会へと流れて来て、そのまま定住する傾向が強いのだ、ということでしょう。学業とか就職とか自己実現とか、理由はさまざまでしょうけれど。
また、都会で生まれ育ちながら「父は九州ですが」とか「母は東北ですが」と語る人々も多くいます。かれらにとっての「地方」とは、もはや父や母の語るような「ふるさと」とは、異なったものであるはずです。
つまり都会には、地方を「ふるさと」として語る世代(私のような)と、「ふるさと」として語ることはもう無理かもしれない、と思う世代が混在しているのです。
加えて、ここ50年ほどの情報メディアの発展は、多くの人々の欲求や欲望を均一化し、あるいは過度に多様化し、そのことによって都会と地方の区別は、少なくとも人心のありように注目する限り、つきにくくなっているとも言えるのです。
伊奈信男賞の審査員たちが、紀成道さんの仕事に目を惹かれたのは、彼が都会と地方という二項対立的な論点について、良い意味での「都会的な」視線や距離感を持って「地方」に入り込み、しかし決して「地方」を食い物にすることなく、そこにある善きものを、率直に私たちに届けようとしている、新しい世代の表現者であることが理解されたからでした。そこには、「ふるさと」として地方を表象しようとする旧来の映像が持つ、あのノスタルジアや感傷のようなものが感じられず、鮮やかな色彩や縦位置のフレーミングの中で、人々や風景はつねに堂々として見えるのです。
人は少ない。子供はいない。自然は手強い。それがどうした。生きることを恐れるな。生きていることに満足しろ。これは人間が、内面的な意味で全員都会人になりつつあるいま、私たちがいちばん聞きたいメッセージではないでしょうか。
(選評・畠山 直哉)
<伊奈信男賞 最終選考に残った候補作品は次の通りです>
伊藤 裕啓写真展「幼根」(2024年7月9日~7月22日、ニコンサロン)
たけうち かずとし写真展「五分の魂ー改ー」(2024年7月23日~8月5日、ニコンサロン)
紀 成道写真展「風と土と x elements/Earth」(2024年9月3日~9月16日、ニコンサロン)
<第49回伊奈信男賞 副賞>
ニコン Z8+NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
1978年愛知県生まれ
京都大学工学部物理工学科卒。人、もの、場所、時間、思考の「接点」でものごとは起こり、異質間の相互作用こそ我々に気づきを与えることをテーマに制作を行っている。島国である日本が直面する課題に人々がどう取り組むかに焦点を当て、何が日本を日本たらしめているかを探る。
森にある精神科病院を舞台に、自然を介した患者と健常者との関わりを「Touch the forest, touched by the forest.」(2017年)、製鉄の現場から高度経済成長期と現在の世代のつながりを「MOTHER」、「Hands to a Mass」(2019年)としてまとめた。展示や写真集ならではの表現で発表を続ける。
本作をまとめた写真集「かぜとつちと x elements」(赤々舎刊)を2024年に上梓。
https://kinoseido.jp/