Creator's TALK

クリエイターが語るN-RAWの魅力

撮影を楽しみたいならできるだけコンパクトで
RAWが撮れるカメラが良い

プロフィール画像 : Suyorukunさん
シネマトグラファー
Suyorukunさん

少人数の制作スタイルでハリウッド映画のような魅力的なルックを生み出すシネマトグラファーのSuyorukunさん。さまざまなカメラをお使いですが、映画的な表現をしようとすると、やはりRAWで撮っておくと安心だと言います。

カラーグレーディングをしているときに色を極端に変えたとしても、RAWで撮っておけばノイズが出たり、バンディングが出にくいので、安心感があります。そこまで極端に色を変えないのであれば、10bitでも充分だと思うのですが、編集をしていると、「こういう表現をしてみると面白いかも」みたいなことはよくあって、そういうときはRAWだとありがたい ですね。思い切ったグレーディングをすることの多い私にとっては、試行錯誤する余地があるRAWでの撮影は安心に繋がります。

SuyorukunさんがZ6IIIで撮り下ろした作品『Vision』

『Vision』というショートムービーはZ6IIIのN-RAWで撮影されました。

コンパクトなカメラなので、できるだけシンプルな装備で撮影しようと思いました。階調モードは「N-Log」にして、モニターは別途用意せずカメラのモニターで「ビューアシスト」をONにして映像を確認しています。昼のシーンも夜のシーンもあり、時間帯は結構変わるのですが、ホワイトバランスは5500K前後にして撮影して、後でグレーディングで少しずつ調整しています。それがやりやすいのがRAWですね。

N-RAWはDaVinci Resolveにそのまま読み込める

N-RAWで収録しましたが、N-RAWはふだんから使っているDaVinci Resolveにそのまま読み込める というのが便利でした。仕事でいろいろなカメラでRAW撮影をしてグレーディングするのですが、いい意味で大きな違いがありません でした。

カラーグレーディングはカラーコントラストを意識しました。よく知られているのが青とオレンジのカラーコントラストを使ったグレーディングですが、その中でもシーンによって薄い青とか、ちょっと濃いオレンジとか、そういう色の濃さをちょっとずつ変えてニュアンスをつけています。ぜひ注意深く見ていただければと思います。

レンズもコンパクトなものを使っています。

せっかくボディがコンパクトで軽いので、そこに重いレンズを付けるとバランスが悪くなり、その良さがなくなると思ったので、あえて小さいレンズを使って撮影しました。NIKKOR Z 28mm f/2.8とNIKKOR Z 40mm f/2の2本をメインに、一部マイクロレンズのNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S などを使っています。Sラインのレンズもいいのですが、今回はリーズナブルでコンパクトなレンズで撮ってもこれくらいのクオリティを出せる ことを証明したいという思いもありました。

RAWだから追い求めることができたラストショットのグレーディング

RAWならではのグレーディングができたというシーンはありますか?

最後の夜のシーンで主人公の男が顔を上げてカメラを見るラストショットがあるのですが、その前のシーンで、カメラが届いて箱から出すショットがあります。まったく同じ場所で撮ったのですが、色が全然違うように印象的なグレーディングにしました。ここはRAWだからやりやすかったのかなと思います。

カメラを箱から出すショット
ラストショット

憧れの人に近づけていって、自分の感覚を加える

Suyorukunさんのようなルックを作りたいと思う人はきっと多いと思います。どうやって学べばいいでしょうか?

いろいろな映像作品をいっぱい見ることじゃないでしょうか。そしてそこから真似をしたり、分析をしたりして、自分のテイストを探すことだと思います。私の場合は、『ジョーカー』を撮影したローレンス・シャー、『DUNE』を撮影したグリーグ・フレイザーが憧れの人なので、彼らのポッドキャストやインタビューを聞いたりして、その人の哲学を参考しています。具体的にこの色をどうしているのか、この光をどうしているのか、ということもありますが、その人の撮影に対する考え方をインプットする ことのほうが重要かもしれません。

理想とするリファレンスに近づけた上で、自分の好きな色にもっていくのは感覚ですか?そこにノウハウはありますか?

最初から直感的にやってしまうとゴールに辿り着けなくて、なにか違うなという感じになってしまうので、まずはリファレンス画像を持ってきて、そこに近づけていき、最後に直感的にこっちがいいなという方向に少し変えていく。それが自分のルックになるのかなと思います。

色編集をしているときは何度も見返しますが、一旦終わったらちょっと休憩して、もう一度見てみると、ちょっと変だなというところは気がつくので、これを何回か繰り返して修正します。

写真と違って、1枚で成立するわけではなく、前後のカットとの関係もあります。一連の流れのなかでは、似たような感じにしなければならない調整もあります。次のカットが全然違う印象を与えそうだったら、そこの間で合わせ込むという作業も出てきます。そういったときにRAWであれば、ホワイトバランスを変えたり、ちょっと色を変えたりという作業がスムーズ にできます。

Z6IIIのようなカメラが現場で一番楽しく撮影できる

RAWが撮れるカメラはいろいろありますが、Suyorukunさんは今なら何を選びますか?

クライアントワークの場合は、どうしても映像機器に詳しくない人もいらっしゃるので、ある程度のカメラを持って行ったほうが現場がスムーズにいくということがあります。もしそういう制約がなくて、撮影自体も楽しみたいというのであれば、コンパクトなカメラが一番良い撮影ができる のかなと思います。レンズもコンパクトなものにして、モニターやバッテリーはカメラに装備されたもので、なるべくシンプルなスタイルで臨むのが良いと思います。

Suyorukunさんは脚本から撮影、ディレクション、グレーディングまでおひとりでやっていますが、目指すところは?

将来的には撮影監督としてアカデミー賞を目指しています。そのために自分のスキルの向上も重要ですが、人とのつながりも同じぐらい大事です。そのつながりを作るためにもYouTubeで情報発信しているということもありますが、業界の人が集まる映画祭にはなるべく参加するようにしています。日本には、自分のようなルックで撮影する人は少ないので、それが差別化になり、自分の強みになると思っています。

SuyorukunさんのN-RAWカラーグレーディング術はこちらから

Suyorukun
Suyeol Jang (Suyorukun Inc.)
Cinematographer Tokyo, Japan
1997年、韓国生まれ。海外で学んだ光の使い方や撮影技術を、自身の世界観や哲学に落とし込んだ独自の表現スタイルを持つ。多様な文化に触れながら築き上げたその表現方法を作品に反映させ、最終的にはアカデミー賞を目指して映像制作に励んでいる。YouTubeチャンネルでは、ワンオペで挑んだ撮影の裏側を紹介しており、登録者数は約15万人(2025年1月時点)。