写真家が愛する街vol.1 Koichiさんが切り取る「飛騨高山」

 

生まれ育った土地やよく足を運ぶ場所も、カメラのレンズを通して見ると違う景色が広がって見えた経験はありませんか?本企画では、とある街を愛するフォトグラファーの視点でその場所の風景を切り取り、思いを語っていただくことで、その街の魅力を深掘りしていきます。

第1回となる今回登場いただくのは、幼少期から高校時代までを飛騨高山で過ごしたフォトグラファー・Koichiさんです。飛騨高山のお祭りなどの過去作例と、撮り下ろし写真とともに、写真家としての原点や飛騨高山に対する思いをお話いただきました。

Koichiさんが切り取る飛騨高山「四季とお祭り」

桜景色を堪能できる春の高山祭

ZR、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S

「自分の地元である飛騨高山には、四季を感じられるお祭りがあります。高山のお祭りで軸になるのが、春と秋の年2回開催されている高山祭。その時期に来ていただくと、高山の雰囲気を堪能できるかなと思います。

春の高山祭では、桜景色のなかで屋台(やたい)と呼ばれるきらびやかな山車が行列とともにゆっくりと進んでいきます。この写真は、朱塗りの中橋を渡っているときを切り取った1枚です。高山の観光協会さんとの協業で、普段は入れない観覧エリアから撮影させていただきました」

 

ZR、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「中橋のたもとも、絶好の撮影スポットなんです。はらはらと落ちてくる桜吹雪を背景にしたいと思って撮りました」

 

中橋 

岐阜県高山市川原町49

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

 

幻想的な雰囲気に包まれる秋の高山祭ときつね火まつり

Z7II、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S

 

「秋の高山祭では、春とは違う種類の屋台が登場し、また違った雰囲気を楽しめます。なかでも見所は、夜の時間帯に行われる『宵祭(よいまつり)』です。提灯で照らされた屋台が街を進んでいく幻想的な雰囲気が好きです」

 

Z9、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena

 

「同じく毎年秋には、飛騨古川で『きつね火まつり』が開催されています。これは『狐の嫁入り』の民話を現代風に再現したもので、花嫁と花婿を乗せた人力車と狐の行列が古い町並みを練り歩くんです。街の人や観光客も、狐風のメイクや衣装を着て参加します。幻想的な世界に入り込めて、すごく面白いお祭りです」

 

Z9、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S

 

「お祭り以外でも、四季の美しさを感じられる場所がたくさんあります。秋らしい1枚は、昔ながらの集落や暮らしを再現した『飛驒民俗村・飛驒の里』で撮影したものです。紅葉の奥には伝統的な茅葺き屋根の民家が見えていて、風情がありますよね。ここは、自分が子どもの頃からよく遊びに行っていた身近な場所でもあります」

 

飛驒民俗村・飛驒の里

岐阜県高山市上岡本町1丁目590

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

 

静寂の雪景色が広がる、冬の飛騨古川

Z7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「冬の1枚は、昔ながらの景観が残る飛騨古川の瀬戸川の近くで撮りました。これは、観光協会さんに実際のお祭りで使う道具を貸し出していただき、撮影した写真です。飛騨古川のきつね火まつりと古川祭りの両方の要素を詰め込んだ幻想的な写真を撮りたくて、モデルさんには狐の尻尾と耳をつけて、古川祭で使われる提灯を持ってもらいました」

Koichiさんが切り取る飛騨高山「街並みスナップ」

飛騨高山の伝統を感じる街並み

ZR、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena

 

「高山といえば、江戸時代から残る町屋をはじめとする歴史と伝統を感じさせる街並みが有名です。『写真家が愛する街』というテーマで写真を撮るならここは外せないと思い、人が少ない早朝を狙って撮影しました」

 

ZR、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena

 

「ここも人力車が通るような風情ある街並みのエリアです。ここは、カメラをやってないと気づけない場所かなと思っていて。というのも、スマートフォンで撮った写真だとこの奥行き感は出せないのですが、望遠レンズで撮ることでグッと奥行き感が出るんですよね。いつも望遠で狙うお気に入りの構図です」

 

高山市上三之町

岐阜県高山市上三之町

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

カメラを始めたことで気づいた、街の美しさ

Z7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「高山にある茶道具屋さんです。大人になってから母と散歩しているときに見つけた場所で、昔ながらの店構えと光の入り方が好きなんです。光の入り方なんて子どもの頃はまったく意識していなかったのですが、カメラをきっかけに強く意識するようになって。カメラを通して、自分の故郷の美しさに気づけたと思っています」

 

野畑茶舗

岐阜県高山市大新町1丁目80

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

 

Z7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「レトロ好きな店主さんが営業している『バーバー文助』という理髪店です。以前、お店の近くで高山祭の撮影をしていたときに、ここの店主さんと話し込んで仲良くなって(笑)。今回、直接お願いして撮影させていただきました」

 

Z7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「店前には、店主さんが長年集めてきたレトロなものがたくさん置かれているんです。その人のこだわりや愛が詰まったモノや場所は、写真を撮ったときにその全てに味が出てくる感覚があります。午後の木漏れ日の入り方もすごく好きだったので、その時間帯を狙って撮影しました」

 

バーバー文助

岐阜県高山市下一之町77-2

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

 

Z7II、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

 

「高山のお土産屋さんで、お店の方が手作りしているアルミ缶風車を撮りました。午後に訪れると、風車が回転しながらキラキラと光を反射していて。単焦点で撮ると背景の玉ボケが綺麗に出るんです。ここは昔からある年季の入ったお土産屋さんで、高山グッズがたくさん並んでいます。店主さんの高山への愛を感じられて、地元に帰省するたびに覗くくらい好きなお店です」

interview:カメラを始めて飛騨高山の美しさに気づいた。写真家の原点となった“家族の存在”

「飛騨高山はカメラとの相性がいい」目では気づけない光をカメラ越しに捉え、その瞬間の感覚を届ける

 

——今回は「写真家が愛する街」をテーマに、過去作例のセレクトと合わせて撮り下ろしをしていただきました。撮影を振り返っていかがでしたか?

今回撮り下ろした写真は、写真を始めたからこそ気づけた飛騨高山の美しさというのがひとつの軸になりました。

自分が本格的にカメラを始めたのは、上京して大学生になってからです。帰省してファインダー越しに地元の風景を見てみると、子どもの頃から見慣れたはずの街並みや夕焼けの見え方がどんどん変わっていって。自分はこんな素敵な街に住んでたんだなと、写真を撮るようになってから気づいたんです。飛騨高山という街は、カメラとの相性がすごくいいんですよね。

 

——撮影において、とくに意識されたことはありますか?

Z7II、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

 

Z7II、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

 

今回の撮影に限らずですが、いつも光は意識していますね。目で見るだけでは気づけないような薄く細かい光でも、ファインダーを通すと立体的に綺麗に浮かび上がるのが好きなんです。高山の酒蔵の飲食スペースで撮影した1枚も、天井の磨りガラスからカーテンのように薄く斜めに入ってくる光がとても綺麗だったので、絶対に撮りたいと思いました。

編集では、その瞬間の景色や感覚を失わないように心がけています。昔はシャドウの部分はとにかく上げるのが正義だと思い込んでた時期もありましたが(笑)、今は撮影時に見た黒が失われない程度に落としています。写真を見た人が、自分が景色を見たときと同じ感覚になれるか。レタッチではそれを大事にしています。

 

舩坂酒造店

岐阜県高山市上三之町105

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

今はZ7IIとZRを愛用。お祭りを撮るなら単焦点レンズがおすすめ

——今回使用いただいた撮影機材について教えてください。

街を散策しながらの撮影では、ボディーはZRとZ7II、レンズは主に標準域のものを使っていました。

Z7IIは、見た目のかっこよさもあって、自分のなかで一番愛用しているカメラだったりします。常に肩から斜め掛けにして撮影をするスチール機という位置付けです。最近はZRで撮る映像にもハマっているんですが、写真機としての性能もすごく良くて。映像を撮りつつ、そのまま写真に切り替えて撮るといった使い方をしています。

——飛騨高山を撮りにお出かけする方向けには、どんなレンズがおすすめですか?

飛騨高山の街並みでのスナップを楽しむなら、標準域のレンズで十分かなと思います。標準域の単焦点かズームのレンズがあれば、幅広く撮れるんじゃないかなと。

あとは、もしお祭りを撮るなら単焦点がおすすめです。昼間の撮影なら問題ないかもしれないですが、夜のお祭りなら明るく撮れるレンズがマストになってきます。人が多いお祭りの撮影では、遠くから狙って圧縮することで迫力が出るので、望遠があるとより楽しめるかなと思います。

時代とともに街並みは変わっていく。思い入れのある地元の撮影で抱いた思い

 

——Koichiさんは高山出身とのことで、地元の景色を切り取るなかで新たな気づきはありましたか?

今回改めて地元の良さを再認識できた一方で、子どもの頃から見てきた景色の変化も実感しました。時代の流れで新しく変わっていく景色に、正直寂しさを感じることもありました。

 

Z7II、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena

 

これは終電後に撮った高山駅なのですが、駅舎も電車も、自分が大人になってから全てリニューアルされているんです。

自分は高校生の頃、電車で高山駅から飛騨古川にある高校に通っていて。当時は、高山駅で通学定期券を駅員さんに見せて、「キハ40系」という昔ながらの古びた電車に乗っていたんです。春は桜を見ながら、冬は雪を見ながら、それこそ春夏秋冬の景色を眺めながら学校に向かう毎日を過ごしていました。

それが今はもう、自分が見てきた景色は見られないんだなと。自分にとって今の高山駅は、時代の流れで街が新しく生まれ変わっていく寂しさを感じさせる場所でもあります。

 

Z7II、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

 

昔からの景色がずっと続くわけじゃないと感じた場面がもうひとつあります。この写真は高山の郷土料理店「久田屋」の前で撮った1枚で、招き猫の上に写っているのは藤の木なんです。子どもの頃は、毎年5月頃に紫のカーテンを思わせる大きな藤の木が咲き誇っていました。でも、ここ数年は同じ時期に行っても咲いているところを見たことがありません。街並みもしかり、自然もしかり、ずっと続いていくものはないんだなと、少し切なくなりました。

今回の企画は、自分の地元である飛騨高山の美しさに加えて、時代とともに変わっていく街の景色を自分目線で切り取った写真になったように思います。

 

久田屋

岐阜県高山市上三之町12

※詳細は、HPや公式SNSをご確認ください

注意点:撮影をする際は周囲の迷惑にならないよう注意しましょう。

 

「その瞬間に誰かといたことを記録しておきたい」祖父と母から教わった“記録写真”の意義

 

——写真家としてのルーツも、地元である飛騨高山にあるとうかがいました。

そうですね。自分のカメラを購入したのは大学生の頃ですが、写真に興味を持ったのは、写真好きだった母方の祖父と母の影響が大きいです。自分が生まれた瞬間からずっと、祖父と母が自分や弟たちの写真を撮り続けてくれていたんですね。

自分の名前が書いてある大きなアルバムが、図鑑みたいに30冊以上はあって(笑)。子どもの頃に祖父母の家に行くと、いつも家族みんなでアルバムを眺めていました。家族と一緒にフィルムを現像しに行ったりもしていて、自分にとって写真はすごく身近なものだったんですよね。

——写真家として、お母さまやお祖父さまの影響を受けているなと感じる部分はありますか?

母は「その瞬間に誰かといたこと」を記録しておくことの大切さを誰よりも大事にしていて。家に遊びに来た友人との写真撮ってくれたり、ほかにも授業参観でクラスのみんなを撮ってくれたり…。クラスの先生に頼んで、みんなの様子を写真や映像で残してくれていたのも、懐かしい思い出です。そうやって「その瞬間は今しかないんだ」ということは、母から教えてもらいました。

自分が仕事で写真を撮るようになってからもずっと、記録写真を大事にしたい思いは強いです。日本や世界各地で撮影をするときは、作品撮りとはまた別として、一緒に旅したメンバーとの何気ない瞬間をフィルムで撮って残すようにしています。特に30代になってからは、記録としての写真を残していきたい思いがより強まってきています。

——記録写真への思いが強まったのには、どんな心境の変化があったのでしょうか?

自分の写真をずっと撮ってくれてた祖父は2〜3年前に亡くなったんですが、その前に、祖父母と母3人の家族写真を撮影させてもらいました。家族の自分だからこそ撮れる表情が絶対にあると思ったし、写真家として自分のかっこいいところを見てもらいたかったんです。

その撮影の1週間後に、祖父が亡くなって。それが、なんとも言えない感覚だったんですよね。写真家としてどうしても撮りたかった撮影ができた達成感と同時に、あの日の一瞬のシャッター以降、もう二度と撮れない写真になってしまったんだなってことを痛感して。

写真っていうのは、その瞬間その場所に誰かが存在していた証を残していく大事なツールでもあるんだなと。今は自分が祖父や母のように撮る側になって、家族の写真をたくさん撮っています。

——写真を撮って残しておくことの意味を深く考えるきっかけにもなったのですね。

そうですね。今回、飛騨高山の街を撮影しながら思ったことでもあるのですが、自分が歳をとるなかで、人も景色もどんどん変わっていくものですよね。先日地元に撮影に行った際に、地元の高山でお世話になっていたカメラ屋さんのおじいちゃんも、少し前に亡くなったと聞きました。自分を作り上げてきてくれた場所や人が時間とともになくなっていってしまう悲しさというのは、すごくありますよね。

だからこそ、自分がアートとして作り出す写真とはまた別に、その瞬間の人や景色を撮っておきたいなと思います。

——今回の企画を経て、これから飛騨高山で撮ってみたい写真や挑戦したいことはありますか?

飛騨高山は自分を育ててくれた大事な街なので、写真で恩返しをしていきたいって思いはずっとあって。最近は地元の写真家さんたちと「写真で街を盛り上げていけたらいいね」という話もでているんです。それこそ、“自分たちを育ててくれた街”をテーマに、写真展を開催できたら面白そうだなと思っています。

あとは、やっぱり今いる人たちや今ある景色がずっと続くとは限らないので、記録写真という意味でも撮影を続けていきたいです。今後はお祭りや街並みだけでなく、この街で暮らす人たちや、自分がお世話になった人を撮影する機会も増やしていきたいですね。

 

ZR

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Koichi

Koichi

岐阜県高山市出身のフォトグラファー。東京を中心に風景とポートレートをメインで撮影。「心に響く写真」をコンセプトに、日常を切り取る。デジタルカメラでの作品づくりに加え、フィルムカメラやオールドレンズも収集し、常に新しい写真の楽しみ方を模索している。